2013年7月7日日曜日

家庭医療セミナーinいわき「実践家庭医塾」の紹介


 福島県立医科大学 医学部 地域・家庭医療学講座では、福島県内の医療機関と協力して、すでに地域で医療を実践されている先生方やコメディカル等を対象に、質の高いプライマリ・ケア、地域医療を提供するために必要な知識・技術・態度・価値観を身につけ、その能力を維持するためのセミナー形式の家庭医療生涯教育プログラム(家庭医療セミナー「実践家庭医塾」)開講しています。社団医療法人養生会かしま病院も協力医療機関の一つとして、平成19年度から現在に至るまで、家庭医療セミナーinいわき「実践家庭医塾」を、コミュニティーホールを主な会場として月1回程度継続開催しています。これまでの実践家庭医塾では、家庭医を特徴づける能力(患者中心の医療、家族志向ケア、地域包括プライマリ・ケア、健康問題の心理・社会的アプローチ、共感できる人間関係の維持・強化)に関する基礎知識と基本スキルを身に着けるためのレクチャーがおおむね終了し、最近では、一方向性のレクチャーだけではなく、参加者が実際に経験した患者さんのケアの実例を通して、より良いケアを提供するための、より実践的な方法の紹介やインタラクティブなディスカッションが展開されています。
 今日の医師不足、特に地域医療の担い手の不足は社会的問題になっていますが、地域医療に従事する医師確保につながる有効な打開策は確立していません。また、日本では、すでに地域で医療を実践している医師の多くは臓器専門医です。専門外の症状を訴える患者を診療することへの不安やスキル不足が、病状の軽重を問わず診療応需困難を招いているというケースもあるでしょう。また、すでに地域で開業している先生方の多くは、質の高いプライマリ・ケア、地域医療を提供するために必要な能力を開業前に系統的に研修できる機会を持てず、各自が診療の現場で必要な知識や技術を後になって独学で学ばなければならなかったりと、個人的努力に依存せざるを得ない場合も多く、円滑かつ質の高い地域医療の実践は容易ではない現状です。
地域医療を実践している開業医が提供する医療サービスを充実させるために、どのような生涯医学教育プログラムが有用であるかを示すエビデンスに関しては、老年医学領域の生涯教育に限定した研究において、従来の講義とスライドショーによる生涯医学教育は効果が不充分であり、インタラクティブで到達目標が明確なプログラムが有効である1ことが示されていますが、地域医療全般を対象にした研究エビデンスとしては、インターネットに拠点を置く生涯医学教育の有用性を示唆する研究にとどまっています。しかも、それらの研究の多くは受講者(医師)満足度調査データに基づいており、受講により診療行動の改善に至ったことを示すいくつかの研究はあるものの、患者や地域の健康問題に対するアウトカムを評価した研究エビデンスはまだありません2。この実践家庭医塾が地域住民の健康問題に関するアウトカム改善につながるかどうかは未だ明らかではありませんが、より有効なセミナーになるよう、よりインタラクティブで到達目標が明確なプログラムを目指していきたいと考えています。
過去の実践家庭医塾受講者のうち開業医師22名を対象としたアンケートでは、実践家庭医塾で取り上げて欲しい内容(複数回答可)として

・日常診療のノウハウ 77.3
・スキルアップを図れるもの 63.6
・これからの家庭医療について 59.1
・患者中心の医療について 50.0
・すぐに使える診断ツール 45.5
・良くある症例・見落としがちな症例などの診断及び読影法 31.8%
・家族志向ケアについて 31.8
・効率的なケアについて 27.3
・コミュニケーション技法 27.3
・最新の医療情報 27.3
・不得意な診療科目の各論 27.3
・持ち寄りによる症例検討 18.2
・臨床教育について 18.2% 
 など

家庭医療実践のために重要なスキルの修得へのニーズの高さがうかがわれました。また、フリーコメントとして「(参加して)今までとは異なる視点から医療を見ることが可能となりました。今まで自分で何となく行っていた診療が、学問的、データ等に裏付けられることを知り、非常に役立っています。」「開業後、プライマリ・ケアの技術論にのみ目を向けてきましたが、数ヶ月のセミナーを通じて基本理念の大切さに気づきました。ケアの基本理念を診療の上でより意識化することで、私自身のコミュニケーションスキル、ケアスキルが向上していることを実感します。今後も総論的テーマを随所に織り交ぜながら、セミナーを進められることを期待しています。」など、当セミナーへの期待を示すご意見が寄せられ、家庭医療後進国と位置づけられている日本でも、家庭医療の教育および家庭医療を活用した医療サービスの提供のためのシステムを整備することが必要であると実感しました。セミナーの継続的開催が、地域住民と地域で働く医師との強固な信頼関係の構築につながり、いわき地域のプライマリ・ケアの質の向上に寄与することを目指して活動を続けてまいりたいと思います。
実践家庭医塾は、過去の講座を受講していなくても各回単独で内容が理解できるように配慮しています。また、医師向けのセミナーでありながら、コメディカルはじめ他職種の方々にとっても学びの機会になるように工夫していますので、家庭医療に興味のある方ならどなたでも大歓迎です。先ずはお気軽にお問い合わせください。みなさんのご参加を心よりお待ちしています。

<次回開催のご案内
平成25年7月18日(木) 19時~(1時間程度)
「患者中心の症例検討」
かしま病院 コミュニティーホール

[お申込み・お問い合わせ]
かしま病院 地域医療連携室
TEL: 0246-76-0350
FAX: 0246-76-0352



1)   Thomas DC, Johnston B, Dunn K, Sullivan G, Brett B, Matzko M, Levine SA.Continuing medical education, continuing professional development, and knowledge translation: improving care of older patients by practicing physicians.Journal of the American Geriatrics Society. 54(10):1610-1618, October 2006.

2)   Curran VR, Fleet L. A review of evaluation outcomes of web-based continuing medical education. Received 9 February 2004; editorial comments to authors 17 May 2004, 22 June 2004; accepted for publication 19 July 2004

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