2011年10月31日月曜日

自宅での大宴会 ~人生最後の望み~

江名・中之作・永崎地域のファッションリーダー的な存在だった格好イイおじさんが、昨日、天国へ旅立った。

彼のご自宅は、もろにオーシャンビューな永崎海岸沿いにあり、無論 今回の津波で甚大な被害を受けた。
ご本人もペットの亀さんも波に襲われながら助かったとのこと…
近隣は更地になっているところも多く、建物が持ちこたえたのが不思議な状況である。
当初、近隣の方々が、惨状を目の当たりにして途方に暮れていた時、彼は真っ先に自宅の復旧に努め、周囲を勇気付けたという。

そんな彼に進行した癌が見つかったのは今年6月のこと。
けれど、彼は癌が発覚した後も、ずっとダンディーで格好良く、最後まで欠かすことがなかった独特の憎まれ口が僕は好きだった。

終末期に入り、老老介護のため、入院で疼痛管理などの緩和医療を行なっていたが、最近では意識状態も不安定になっていた。
何度か「何かなさりたいことは?」と問いかけても、なかなか明確な回答をくれなかったのだが…

「自宅で大宴会を開いて、みんなに御馳走したい」

最後の願いだった。

急遽、在宅酸素とポータブル吸引器、介護タクシーを手配し、医師同伴で自宅への外出作戦を決行したのが昨日のこと…
外出中の大半はグッスリと穏やかにお休みになっていたが、会が盛り上がると、震災時に九死に一生を得た愛亀を嬉しそうに抱き、ご自身も焼酎を一口二口と味わい、ご満悦の様子だった。
もう5年以上の付き合いになり、彼のことは随分知っているつもりだったけれど、宴会には僕が知らない数え切れない人々が訪問した。
各々が彼を気遣い、感謝の言葉を伝え、涙している姿を見るにつけ、彼が必死に復旧させ、命懸けで帰りたかった家と、人間の大きさを見せつけられた気がした。
日頃、患者さんの背景にある家族や地域を意識し理解するように励んでいるつもりであっても、やはり百聞は一見に如かずということを痛感した。
彼のご冥福と、ご家族のご健康を こころよりお祈り申し上げる。

2011年10月28日金曜日

見せたい! いわき医師団の底力

日々の新聞 (2009年4月15日) 地域医療のあり方
開業医が心開いて協力体制をつくる
http://www.hibinoshinbun.com/files/iryou/147/i_147_01.html

<以下抜粋>
勤務医不足による地域医療の崩壊が叫ばれている。その根本的な原因は何なのか。
~中略~
自分の患者については責任を持ち、午後は必ず、五、六軒は往診をしていた。そして、そこには必ず家族がいた。夜も何かあると診察し、急を要する場合は、無理がきく病院に連絡して救急車に同乗した。  しかしいま、そうした開業医が少ないように思う。開業医としての意識がおざなりになっているような気がしてならない。地域医療崩壊の原因はそこにある。開業医1人ひとりが意識改革を図らなければならない。
~中略~
開業医同士が心を開いて、地域医療をどう改善していくか話し合うべきではないか。個人個人バラバラ、ともいえる開業医それぞれが殻を破って協力し、医師会がまとめ役になって、生命や命の尊厳にかかわる医療の問題と取り組む必要がある。





古い記事ではあるけれど、尊敬する大先輩のコラムから、今のいわきの地域医療に必要なものを知ることができる。
現状を鑑みると、「ドキッ!」 とするぐらい鋭く切り裂く御指摘の数々・・・
重く受け止めたい。

震災の急性期。

いわき市内の医師の多くは確かにバラバラに行動していた。
そのことが円滑な地域医療の提供を困難にしたことを、
その時は痛感したはずなのに

診療体制が復旧した今となっては、喉元過ぎれば何とやらで、驚くほど何事もなかったかのように以前と同じ体制のまま日々の診療が行われているように感じられる。

時間外診療事情が、震災以前にも増して過酷になったことを除いては・・・

「手遅れになる前に何とかしなければ」という焦る気持ちと、「やるしかない」という覚悟というか開き直りが、今の自分の感情に混在している。

2011年10月27日木曜日

相棒が100000km達成! 福島県が広すぎるのよね

昨日(2011年10月26日)、職場に到着する直前の画像。
愛車が大台に乗る瞬間。

この車に本格的に乗り始めたのは、広大な福島県内を頻繁に行き来する現在の勤務形態になった3年7ヶ月前からである。
短い期間に随分と長い距離をお伴してくれたものだ。
車検を終えたばかりでまだまだ元気なこの相棒には、もうしばらく活躍してもらいたい。

2011年10月25日火曜日

いわき市病院協議会 平成23年度 第1回 研修会

「東日本大震災から各病院は復興に向けどう立ち向かったのか」
~事例報告から震災対応を考える~

いわき市病院協議会 平成23年度 第1回 研修会が、本日(平成23年10月25日)18時から いわき市総合保健福祉センターで行われた。

震災発生後、刻々と変わる情勢への対応に追われた各医療機関の奮闘の様子が紹介され、当時の生々しい体験の記憶が蘇った。
各医療機関とも、想定外の危機の中でもがきながらもベストを尽くそうと努力していたことと、今回生じた問題点を次の危機管理に活かそうと必死であることに敬意を表したい。
研修会を通し、総じて、各医療機関が現場の事情に合った独自の備えを日頃からしておくことと、多職種・多医療機関間の地域の枠を超えた協力が、危機を乗り越えるために不可欠であることを実感した。
平時にも有事にも、公的にも私的にも、互いに信頼し合える強固なネットワークの構築が急がれる。

東北地方太平洋沖地震の津波によって1階が崩壊した長春館病院の状況

2011年10月15日土曜日

第65回 Family Medicine Resident Forum in 只見

729日の豪雨災害の爪痕が未だ残る只見町で、Family Medicine Resident Forumが開催された。
河原には流木が山積みされていて、川沿いの道はところどころ崩れていて、片道交互通行となっていた。随所で工事が行われていたが、未だ手つかずのところも多いようだった。
美しかった清流は、土砂で汚れすっかり変わり果てていた。

会場の只見町国民保険朝日診療所は、この町の唯一の医療機関である。
新しい建物ではあるが、木の温もりを感じる内装で、良い感じの風情があった。
(上手く表現できませんが…)
<本日のメニュー>
Reflection of the Month 担当:若山隆(後期研修3年目)
「リビングウィル」~最期の時の患者さんの希望 きいてみませんか?~
終末期医療の方針について事前に(本人が元気なうちに)確認している取り組みや、米国で活用されている法的効力のあるリビングウィル(Physician Orders for Life-Sustaining TreatmentPOLST)が紹介された。
家庭医として日常から患者さんと「リビングウィル」について話し合える間柄であることが、結果的に患者さんにとって有益な終末期医療の提供につながるものと感じた。

②朝日診療所 グラム染色プロジェクト 担当:若山隆(後期研修3年目)
「診療所でのグラム染色」~導入から課題まで~
グラム染色における検体の評価などの基本的注意事項の確認と、染色の実演を楽しく行った。














③研究合宿報告 担当:川井巧助教
泊りがけで研究オンリーの 熱い熱い、そして厚い議論ができた。
研究の大枠を飲みながらエンドレスディスカッションする事の有効性が感じられた。
ただし、多くの意見が出過ぎて、細部の確認は平時に詰める必要がある。
飲み過ぎると寝てしまうという弱点もある。

④あっちゃんの考える診断学 担当:石井敦助教
一過性直腸痛の診断のパターン認識を学んだ。
なんだか分からない症状に出くわした時「これってなんですかねぇ~?」って上級医に気軽にきける環境って大事ですよね。

Cinemeducation 担当:葛西龍樹教授
「サンキュー・スモーキング(2005)」
個人の選択の自由と、公共の利益の対立や、健康に関する情報操作などをテーマに議論が展開した。

ホストのK先生とW先生の企画力に敬意を表します。
本当にお疲れ様でした。
楽しい学びの機会になりました。

それにしても、いわきから只見に日帰りすると、移動距離約420km、半分は一般道なので、往復6時間の旅!
福島県の広さをあらためて実感する一日でもあった。

2011年10月14日金曜日

家庭医療セミナー in いわき 「実践家庭医塾」

震災後、一時中断となっていた 家庭医療セミナー in いわき 「実践家庭医塾」 が、本日再開となった。
実践家庭医塾とは、グローバル・スタンダードの家庭医療が実践できる能力を獲得し、その能力を維持するための教育を提供することを目的として、地域で家庭医療を実践することを望む医師(特に既に実地診療に従事している開業医)や、家庭医療に興味がある関係者を対象に、福島県立医科大学 医学部 地域・家庭医療学講座が提供しているセミナーである。
現在、財団法人仁泉会医学研究所 保原中央クリニック(伊達市)と社団医療法人養生会 かしま病院(いわき市)にご協力をいただき、それぞれを会場に「家庭医療セミナー」を定期開催している。

<ご参加お問い合わせ・お申し込み先>
今回は、東日本大震災から学んだことを中心に、多くの避難者を含む変動するコミュニティーを、家庭医としてどのようにケアしていくかを考える機会となった。
参加者が共通して発言していたのは、地域を守るネットワークの強化が必須であるということ。

仮設住宅の集会所にお邪魔するようになって、プライバシーの保護が、コミュニティー全体の状況を把握することを困難にしていると感じる。
仮設住宅に限らず、既存のコミュニティーにおいても同じようなことが起きているように思う。
炭鉱長屋のようにとまではいかなくとも、もう少し顔の見える関係と地域情報のデータベース化が必要なのではないか?

次回の家庭医療セミナー in いわき 「実践家庭医塾」開催日は
平成24年1月27日(金)19時~ 社団医療法人養生会 かしま病院 コミュニティーホール
お申し込み先:かしま病院「地域医療連携室」 
Email:k-izawa@kashima.jp TEL:0246-76-0350 FAX:0246-76-0352

2011年10月13日木曜日

奇跡を起こす「見えないものを見る力」

皆さんは龍の存在を信じますか?
UFOや宇宙人の存在を信じますか?

自分は正直なところ半信半疑であるけれど、科学的に証明されない不思議なことの存在は理解できる。

最も尊敬する人物の勧めでこの本を手に取った。

木村秋則さんは奥様が農薬で身体をこわされたのきっかけに、完全無農薬・無肥料という当時の常識では絶対に不可能とされたリンゴ栽培を実現した人物で、人生の要所要所で、数々の不思議体験をしてきた。
「本当に大切なことは目に見えない」ことに気づいた時、これまで実らなかった完全無農薬・無肥料のリンゴが実ったという。

そして、日本海中部地震の前日にも、東日本大震災の前日にも、雲に姿を変えた龍を空に目撃したという。
写真は木村さんの知人の方が、2011310日の十和田湖上空で目撃した龍神雲だ。
背部に靡く黒い部分は肉眼では見えていなかったという。

人間は無限の可能性をもっている。
けれど、万能ではない。

難しいことを現実のものにしようとすると、時に人間は無力に思える。
しかし、そのことを理解しつつも謙虚に諦めることなくバカみたいに続ける時、不思議な運命が後押ししてくれるのかもしれない。

人は決して自分の力だけで生きているのではない。
目に見えないものとともに生きている。いや、生かされている。
そのことに気づくと、少し肩の荷が降りたように感じられる。
自分の無力さを嘆くこと自体、傲慢であったと気づかされる。

常識でないことを常識にするためには、途方もない努力が必要に思える。
むしろその努力さえ実らないことの方が多いだろう。
それでもいい。
自分の目の前にある現実。
これだけは誰も否定できない、まぎれもない事実だから…
運命に操られながらも、目の前の1日1日を悔いのないように生きていく、ただそれだけでよいように思う。

家庭医療の魅力に取りつかれ志してから、早くも12年を超える月日が流れた。
その過程で行き詰まった時期に、リアルな龍神様が現れて私に家庭医を育てるという使命を与えてくださった。

宇宙人に捕獲されたほどのインパクトはないが、自分にとって生涯大切にしたい運命の流れである。

いわきで家庭医療を根付かせること。
これは、12年前の自分にとっては点でしかなく、途方もない夢のように感じられた。
「自分だけで生涯、静かに続ければいい」
そう考えていた時期もあった。
その考え自体、今でも大きく変わってはいないのだが、家庭医療というその点は今や線となり、更なる拡がりが期待できる段階にまできている。
本当に大切と信じることを、地道に謙虚にを続けていきたい。

<おまけ>
不思議なものつながりで、地震雲掲示板 http://kumobbs.com/ より地震雲 2枚!
201139 宮城県上空
201139 金沢市 東南の空
(東方:金沢から見て、ほぼ東北地方方向に収束する放射状の雲)

2011年10月9日日曜日

福島県立医科大学 医学部 地域・家庭医療学講座 第1回 研究合宿

福島県立医科大学 医学部 地域・家庭医療学講座 第1回 研究合宿が、当講座 研究プロジェクトチーム主催のもと開催されている。

ちなみに勉強会は今も現在進行形で続いている。
すでに深夜となった今も銘酒片手に熱い議論が展開されている。

写真のお酒は福島県石川郡古殿町の豊国酒造の純米酒「超」
包装に金をかけずにその分中身に注ぎ込んでます。
と云うだけあって「美味い」
同じ中通りの奥の松に似てる感じで気に入った。
熱い!
そして激しく眠い!!!
すでに入眠していたはずの参加者たちが、入れ替わり立ち替わり突如、「ムックッ!!」っと起き上がり、何事もなかったように再度、議論に参加してみたりと、みんなナイス・ファイトである。

「磐梯高原リゾートインぼなり」http://www.bonari.or.jp/index.html の大広間で夕方から寺子屋風に始まったこの合宿。ゲストの順天堂大学 総合診療科 准教授 横川博英先生の「研究テーマのヒント」と題したレクチャーで幕を開けた。
研究は、とにかく「はじめの一歩(きっかけ)」が重要!

そして研究とは新しいエビデンス作りということで、自分が特に興味のある分野で、研究を通して何らかのお役にたちたいという気持ちが強まった。
とにかく身の丈に合った、自分にできることからやっていきたい。 

次に、親分の葛西龍樹 主任教授から「オランダの家庭医療研究の最新情報」ということで海外視察の報告をいただいた。
身の丈に合わせるのと同時に身の丈を伸ばすように!
というヒジョーに厳しい指令が…(苦笑)
現在、懇親会に続いて個々の研究進捗状況に合わせたディスカッションが延々と行われている。
プロジェクトリーダーの御好意により、限界が来た順に寝てもOKということで、寝床完備で進むプレゼンなのだが、なぜか今のところ寝床にもぐるものはいない。













しかし、さすがに眠い…


これまで診療バカだった自分にとって、研究は尻込みし易い分野ではあるが、飲みながらエンドレスに語るこの状況はとっても身に馴染む。
日常診療上の疑問を解決すべく、楽しく学びながら、新たなエビデンスを生み出したい。

それにしても、これいつ終わるの?

2011年10月6日木曜日

いま本当に必要な医療のものさしとは何か

Konica Minolta Medical Network No.2, 2011 の巻頭特集
http://www.konicaminolta.jp/healthcare/medicalnetwork/

東日本大震災を経て再考する「いま本当に必要な医療のものさしとは何か」

まずは、日本プライマリ・ケア連合学会 東日本大震災プロジェクト(Primary Care for All Team:PCAT) 本部 担当理事の大橋博樹先生。

被災地の医療支援から学ぶこと
「他職種が柔軟に連携し、QOLを高める医療体制」
この中で、東日本大震災の被災地では、急性期の患者が極端に少なかったけれど、亜急性期から慢性期にかけた医療ニーズの大きさを述べられている。
特に高齢化率の高い地域における他職種連携を要する医療ニーズの膨大さを、将来の日本社会の縮図としてとらえている。

災害医療の専門家チームによる医療支援だけでは、現地のニーズにマッチしていないと考えていた私にとって腑に落ちる内容だ。
とにかく一方的な医療支援だけでないのが重要。
窮地に立たされてた時、PCATの方々が「今、必要なものは何?」って単刀直入に聞いてくれて本当に心強く嬉しかった。

危機に対応するために必要な医療支援として以下のことが挙げられている。

「情報収集から実行への組織づくり」
現地のニーズを効果的に支援に結び付ける仕組みをつくる

「他職種連携」
慢性期の医療においては、患者の生活の質を維持するため、医療関係者以外も含めた連携が必要

「地域特性に合った継続的な支援」
それぞれの地域の特性を鑑みながら、地元の復興力をそがないような支援を実行する

「包括的アプローチ」
被災地への医療支援にためには、募金活動や行政側への働きかけなど、医療行為以外の活動も重要

医療の提供を無計画的に進めてきたツケと歪みにあえぐ我が国の地域医療に足りないものをズバッと指摘してくださっている。
これは、今後の日本の医療に必要なものを知るためのヒントでもある。


次に、うちの親分(福島県立医科大学 医学部 地域・家庭医療学講座 葛西龍樹 主任教授)の記事。

被災地の現場から家庭医が語る
「質の高い家庭医療の実現が急務」
<最後の部分の抜粋>
当講座での家庭医育成のレベルを高く保ち、このフクシマモデルが全国の規範となることができるように努力したいと思います。福島でトレーニングを受けた家庭医ということが、ネガティブではなくて、ポジティブな風評になることを願っています。
(中略)
今回の大災害でなおさら家庭医療のシステム構築が急務だということを強く感じました。
家庭医療、プライマリ・ケアを担当する人がこれから増えていくことで、何か災害が起きたときも、その地にとどまりリーダーシップをとって地域のプライマリ・ケアのシステムを守る。そうすることによって二次医療、三次医療の機能も有効に働く。この一体化した地域医療こそがこれからの医療を形づくる根本に他なりません。

教授の決意に触れ、もはや「待ったなしで突き進むしかない!」と思う。