2016年9月29日木曜日

複数の健康問題にどう対応するか? ~実践家庭医塾~

本日の実践家庭医塾のテーマは、「複数の健康問題」入院を契機に受診医療機関を整理した事例
専攻医の経験事例をもとに、参加者全員で家庭医の専門性や役割について省察した。
多種の既往疾患があり、日常生活動作能力の低下のある患者で、中心となるケアの担い手が不在である方が緊急入院した際に、入院を契機にケアの窓口を一本化した事例を通して、家庭医が介入することにより、医療過誤リスクの低減、医療費・ポリファーマシーの減少、入院リスクの低減、入院となった際の必要十分な情報提供、不要な検査や入院期間の短縮などの可能性が示唆された。
また、原因はともあれ、既に経口摂取困難、意思疎通困難、寝たきり状態と、日常生活動作のほとんどに介護を要する状態である場合、個々の疾患の診断・治療に関して、どこまでの医学的介入をするべきか?
こういった場合、多くの医学的問題が複雑に絡みあい、悪性疾患の有無に関わらず、臨床的に予後が悪い、つまり終末期にさしかかっていることがほとんどである。
ご本人・ご家族のご意向を鑑みて『患者にとって最善』と思われる終末期の意思決定をサポートしつつ、家族が肉親を看取ることを受容できるように支援していくことも私たちの重要な役割である。

2016年9月26日月曜日

ポートフォリオを用いた医学教育 (第115回FaMReF)

 2016924日 伊達市の保原中央クリニックで、第115回 家庭医療レジデント・フォーラムが開催されました。
 日本プライマリ・ケア連合学会では、家庭医育成のための医学教育の手法として、ポートフォリオを導入し、家庭医療専門医コースの専門医試験にも活用しています。
 ところで、ポートフォリオとは何でしょうか?
 ポートフォリオの本来の意味は「書類を運ぶ平らなケース」です。現在では、特に美術系の分野で「自分の能力を周囲に伝えるための自己作品集」という意味合いで使われ、これまでの仕事や活動の成果を自らの意志で1冊にファイルしたものを指します。
 福島県立医科大学 地域・家庭医療学講座でもポートフォリオを用いた医学教育を実践しています。今回のフォーラムでも、家庭医療専攻医(家庭医療を学ぶ後期研修医)が作成したポートフォリオを題材に深い議論が加えられました。
 ポートフォリオを用いた学習とは、学習者が診療における断片的な経験を積み重ねていくという偶発的経験の蓄積のみに依存するのではなく、学習者が自らの意思に基づいて、あらかじめ研修すべき内容の全体(家庭医に必要なスキルとマインドなど)をおさえ、「何のために何をやりとげたいか?」「この研修で何を獲得したいのか?」という自らの目標を定め、自らの意思で前向きに学ぶことを援助する学習方法です。つまり、研修期間の終了間際に、研修経験を振り返りながら各項目の診療経験をまとめていく症例報告とは本質的に異なり、研修開始当初から、目標を設定し、エントリーできる事例を意識しながら研修を行います。したがって、学習者は「今のこの経験が、自分が目標とする家庭医になるために必要なスキルのうちの、この領域を学んでいる」ということを常に意識して診療にあたることになります。

 ポートフォリオを創る際に学習者は、その領域で自らが学んだことや獲得した臨床能力を明示し、自らの能力を周囲に理解してもらえるよう配慮します。ポートフォリオを通して、自身の思考過程や、診療において独自に工夫したこと、そして、今後も継続的に成長していくための方略が備わったことが他者に伝わるように記載・作成します。