2011年9月12日月曜日

震災時だけではない! ~日々繰り返される地域医療崩壊~

常日頃思うこと…

質の高い医療が地域で円滑に提供されるための条件として、地域の診療所の医師と病院の各科専門医との良好な連携は最も重要な要素といえる。

その両輪が常に機能していなければ必ず脱輪する。
今回の大震災の急性期においても、軽傷患者のケアや慢性疾患の継続的管理、および疾病予防のための生活指導などを担うべき地域の診療所の医師の役割はきわめて重要であった。しかし、実際は地域の診療所の多くが診療を継続することができなくなり、地域医療を守るネットワークとしての機能は完全と言っていいほど麻痺した。
その結果、多くの人々が直接病院へ殺到し、病院の医療スタッフは疲弊し、より重症な患者や専門的な治療を要する患者のケアといった本来病院が担うべき役割を果たすことが困難になった。
なぜそうなったか?

被災地ではあらゆる連絡手段が一時完全に寸断された。
その結果、系統だった医療連携が立ち行かなくなった。
その結果、地域医療の崩壊を招いたという指摘がある。
また、原発事故による放射能汚染の影響で支援物資の物流が滞り、いわき市をはじめ福島第一原子力発電所の周辺地域では水や食料のみならず深刻なガソリン不足をきたした。
そのことが、医療機関の職員の通勤や訪問診療・訪問看護をも困難にし、小規模な医療機関から順に診療中断を余儀なくされていったことも事実である。
しかし、原因は本当にそれだけなのだろうか?

現在の日本では、地域の診療所の医師のほとんどは個人開業で、しかもその大多数は開業直前まで病院勤務していた各科専門医である。
したがって家庭医のように何でも相談して診てもらえるというわけにはいかない場合を想定しなければならない。
「○○眼科医院」「◇◇神経内科クリニック」などといった具合に、診療所名や看板の表示を見ると医師の専攻科目が分かるようになっていて、症状や目的に応じ、患者さん側が診療所を自由に選んで受診している。
このことは、誰でも自由に専門的な医療が受けられるため、日本の医療システムの良い点として捉えられる場合もあるが、裏を返せば、医療の素人である患者さんが何科にかかるべきか自分で判断しなければいけないという短所にもなる。
また、地域医療を支えるべき診療所の役割分担が、地域ごとに分かれているのではなく、診療科ごとに分かれているため、「この地域はあの先生が診てくれる」とか、「この地域は診療所ごと被災してしまったので、隣の地域のあの先生がきっと助けてくれるはず」といった暗黙の了解は存在せず、地域における医師の責任が曖昧である。

今回の震災を通し、様々な健康問題を抱える多くの人々を地域包括的に効率よくケアすることが求められる場面に直面し、今の日本の地域医療システムが、災害時においていかに脆弱で非効率であるかを痛感した。

ところで、日本の医療の欠点が露呈するのは災害時だけだろうか?

多くの人々が直接病院へ殺到し、病院の医療スタッフが疲弊してしまうという状況は、今の日本においてもはや災害時限定の特殊な問題ではなく、実は毎日のように起きている重大な社会問題と言える。
診療所の医師のほとんどが個人開業している現状では、たとえかかりつけの患者さんであっても、一人の医師で24時間365日対応できる体制を整えることは現実的ではない。
それでも医師がプライベートを犠牲にしていつでもかかりつけ患者と連絡がつく体制を整えている場合や、地域の医師会や行政の努力で休日夜間診療所や当番医を設けている場合があるが、あらゆる健康問題が持ち込まれる時間外診療では、病状によっては専門外の問題で対応が難しいケースも少なからずあるようだ。

結局、休日や夜間には患者さんが病院に殺到しやすい現状である。

2011年9月11日日曜日

なみ~だの数だ~け、強くなれ~るよ! フラミンゴと岩田健太郎先生

あっという間の2日間。
準備に関わったすべてのみんなと、会を大いに盛り上げてくださった参加者の皆さんに敬意を表したい。

岩田健太郎先生をお迎えするにあたり、いわきが誇る「メヒコ」いわきフラミンゴ館で、ウェルカムランチョンセミナーを行ったわけだが、

「こんなに近くでフラミンゴを観る時が来るとは・・・」

とやや興奮気味に語りカニピラフを召し上がる岩田先生のお口と、ガラス越しのフラミンゴの肛門との距離は、40cm未満だったかもしれない。

メキシコ料理が置いてない「メヒコ」、ラーメンよりも焼肉定食が定番な「どさんこラーメン」、東北に「ハワイ」、レストランにフラミンゴ。
この唐突さにしびれたらしく、岩田先生から「いわき深いね~」と最大限の賛辞をいただいた。

さあ!
フォーラムの始まり。

「私たちは、震災後の6ヶ月で涙もろくなりました。しかし、その分強くなりました」

という葛西教授の言葉でフォーラムは幕を開けた。


1日目>
①特別講演プライマリ・ケアでの感染症診療岩田健太郎先生
(神戸大学大学院医学研究科微生物感染症学講座感染治療学分野教授)
インフルエンザのマネジメント、被災地での洗浄、消毒の考え方などを含め、フロアからの日常診療上の疑問をベースに明快なご回答をいただいた。

まったく台本なしの荒技。
すべて質疑応答の濃い90分であった。
どんな質問においても、その歴史から最新のエビデンスまでを網羅した回答で、本当に勉強になった。質問の内容はさまざまであったが、岩田先生のご回答から、一貫して

「物事の本質を見失わないで!」

という強いメッセージを感じた。
病気の断片にとらわれ過ぎて、とかく手段が目的に誤認されがちになる現代の診療の現場をズバッと一刀両断していただいた気がした。

「所詮フラガールの前座」と自虐謙遜される岩田先生の気さくさに惚れた。

決して前座じゃなくてスペシャルゲストですよ~

Reflection of the Month 後期研修2年目 山入端 浩之
「慢性疾患の家族アセスメント」
患者と家族に対して疾患だけでなく、心理・社会的にもバランスよくケアするための方法を多職種間で議論した。

Cinemeducation 葛西龍樹 主任教授
フラガール2006
いわずと知れた、いわきが誇る名映画。
危機的状況における人々の葛藤を通して、同じく災害による危機に瀕しているいわき(福島)の再生と復興への努力の重要性を確認した。
どのシーンを観ても5分ともたない涙腺。
おのれの前頭葉の機能不全を感じた。

さあ、おまちかねの懇親会。

神々しきフラの動きに鳥肌が立つ。
そしてみんな真剣にフラ体験し、熱い熱い懇親会はあっという間に過ぎていった。


ホテルに入り、恒例の二次会は・・・

ムフフ・・・

噂によると客室でないところで朝を迎えた者もいるそうだが、真実は定かではない。
少なくも「家庭医は夜育つ」という格言は正しいようだ。

翌朝、心地よい気だるさ。
無残にも三角形に削り取られた照島を露天から眺めながらの朝風呂。
海鵜が生息できる場所は残っていないかもしれない。
あらためて津波の爪痕を痛感する。

2日目>
④考える診断学 助教 石井 敦
症例の模擬診断体験を通して、痛みの特徴をとらえるツールとしての「OPQRST」と、悪性疾患と決めつける前に、根治可能な良性疾患を見逃さないことの重要性を紹介した。
詳細な医療面接と、鑑別診断を丁寧に吟味することの威力を再認識した。

Reflection of the Month  後期研修4年目 星 吾朗
Genogram 家族図」について
家族志向ケアにおけるツールとしての家族図の書き方から、その有用性についてまで分かりやすい解説がなされた。

「家族図」もっと書きたくなったよ!


⑥ワークショップ「災害と地域ケア」
かしま病院 看護部 鈴木則子さん
災害時でも機能し続ける多職種による地域医療連携の方策について活発な議論がなされた。
今すぐ変えていかなければならない。
gooヘルスケア医療と健康コラムで綴った思いのとおり、
今から変えていく覚悟が固まった。

とっても有意義な議論だったので、頑張って良い報告書を完成させよね・・・Y君!

全体を通して楽しく学んでいただけたフォーラムだったと思うが、そこはしっかりフィードバックの集計結果を分析して、今後は更により良い学びの場を提供していきたい。

さて、フォーラム後は小名浜魚市場の市場食堂で海鮮三昧。
地物をめいいっぱい口に頬張れる日はまだ先になるだろうが、営業していること自体から、多くの方々の復興への努力を感じることができて嬉しかった。

帰宅後、1446分をむかえた。

黙祷の間、この6ヶ月の間に起きたことが走馬灯のように脳裏によみがえり、涙が溢れ出す・・・

しかし、その分、自分が強くなっていると信じている。

2011年9月8日木曜日

無理難題・・・? ~櫻井翔君と家庭医~

福島市からいわきへ帰還。
Jフレンズな家族が録画しておいてくれた嵐の櫻井君の番組を一日遅れで観ることができた。

櫻井翔の“いま そこにいる人々”<命の現場>
Eテレ 9月7日(水) 午後6時55分~7時49分
http://www.nhk.or.jp/program/imasoko/

「とてもよくできている番組」と妻が絶賛する。
確かに・・・
地域の方々へのインタビューや、診療の実例をもとに
「家庭医ってなぁに?」という疑問に応えていて分かりやすいと思う。

少なくとも おいらの解説 よりはずっと分かりやすいだろう。
http://atsushii.blogspot.com/2010/11/11.html

初めて「家庭医」という単語を耳にする方でも、きっとどんな医者か結構理解してもらえそう。
櫻井君が「神様のカルテ」に主演していなければ、というより何事にも手抜きなく勤勉にトコトン追求する櫻井君がいなければ「家庭医」というものを知るのが10年先になっていた方々もきっと大勢いるはずだ。
とにかくオール嵐のBGMがイイ!

なんて考えていたら・・・

「うちにも櫻井君を連れて来てちょうだい!」
と鬼妻がトンデモ発言・・・

「1円を笑うものは10円で爆笑。100円で大爆笑!!!」
が家訓なくらいスーパーポジティブな我が家ではあるが、それはチョット無理難題じゃね?
<記事と画像は一切無関係です>

医学書院 「病院」 9月号 巻頭グラフ ~地域を知る,医療を知る~

 医学書院の月刊誌 「病院」 9月号の巻頭グラフで、当講座が教育にあたっている ホームステイ型医学教育研修プログラム が紹介された。
~地域を知る,医療を知る~ と題して、県内各地域で臨床実習にあたる福島県立医科大学 医学部6年生と、それを受け入れるホームステイの大家さんはじめ地域住民や地域医療に従事する指導医との交流の様子が描かれている。
白衣を着た医師としても、白衣を脱いだ一人の住民としても、地域に深くかかわっていくことの意義を雑誌を通して多くの方々に理解していただけると嬉しい。



病院 ISSN 0385-2377 (Print) ISSN 1882-1383 (Online) 70巻9号(2011.09)P.641-644(ISID:1541102078)
http://ej.islib.jp/ejournal/1541102078.html

<巻頭グラフ>
地域を知る,医療を知る─福島県立医科大学 ホームステイ型医学教育研修プログラム福島県立医科大学では,地域・家庭医療学講座が中心となって,2006年より「ホームステイ型医学教育研修プログラム」(以下,ホームステイ研修)を実施している.医学部6年生の臨床実習,または初期・後期研修において,希望すれば県内各地の一般家庭にホームステイしながら,その地域の病院や診療所で実習できる仕組みだ.新潟県との県境に近い福島県只見町,そして東日本大震災の被害を受けたいわき市において,その様子を取材した.

震災から半年・・・ 家庭医として、人として

勤勉な人ほど、より勤勉に過ごそうとする。
凡人には到底できそうもないことを、平等に与えられた時間でこなしていく・・・

スゴイなぁ~

常日頃、自分にはできないこととして、ある意味他人事として片付けていた。

2011.3.11
でも、あの日を境に個人の中でも同じようなことが起こることを学んだ。

人は忙しい時ほど、より忙しく過ごそうとする。
平時には到底出来そうもないことを、今までと同じスピードで過ぎてゆく時の中でこなしていく・・・

平平凡凡と過ごしていた自分が、
I love 暇. な自分が、
筆不精過ぎて、夏休みの絵日記すら三日坊主だった自分が、
スーパーアナログ人間だった自分が、
今、なんでわざわざキーボードを叩いているのか?

その答えは、私の脳細胞と同様に単純である。

今、自分が感じていることを、独り占めしてはいけないと思うから。
そして今、自分が感じていることを、生涯忘れてはならないと思うから。

私自身の変化は、私に多くの方々との新たな出会いをもたらしてくれた。
gooヘルスケア「医療と健康コラム」の連載のご依頼をいただいたのもそのひとつ。
http://health.goo.ne.jp/column/healthy/h002/0143.html
いわきに住み、いわきで働く家庭医として、自分が伝えなくて誰が発信できる?
そう考え、日常業務の合間に思いを込めた。

安全と信じていた原発が爆発!
怖かったあの日・・・
けれど、私は愛するこの地で生きていくことに何の迷いもなかった。

同じく故郷への熱い思いを持ちながら、愛する住み慣れた土地を離れ、今でも長期の避難生活を余儀なくされている方々が、どれだけ無念か想像すると胸が苦しくなる。

震災から半年・・・

半ば諦めかけていた、恒例の「家庭医療サマーフォーラムin福島@いわき」
http://atsushii.blogspot.com/2011/08/in2011.html

多くの方々の励ましとお力添えのお陰で今年も開催の運びとなった。
遠方から参加してくださる方もおられる。

いわきで起きたこと、そして今のいわきを肌で感じて欲しい。
私自身は、家庭医として、人として、今自分にできることが何かを振り返る機会にしたい。

2011年9月7日水曜日

gooヘルスケア「医療と健康コラム」シリーズ最終回 ~熱っ!!!~

福島から発信する新しい医療体制の提案
どんな状況下でも機能し続ける地域全体の健康づくりを、国民一人ひとりが主体的に参加し創りあげていこう
シリーズ最終回です。
私の熱い思いが凝縮しています。


<バックナンバー>
人は、独りでは生きていけない
大規模な災害医療支援の歯車となった家庭医たち。地域に生き、地域で働く喜びと誇りを胸に、医療と向き合う
http://health.goo.ne.jp/column/healthy/h002/0143.html

災害時こそ、家庭医の役割はより重要になる!
長期化する避難生活では、包括的かつ継続的に診てくれる家庭医が求められている
http://health.goo.ne.jp/column/healthy/h002/0147.html

2011年9月3日土曜日

人を怒らせるということ ~あっちゃんキレる~

人を怒らせるということ・・・
※ 写真と記事は一切関係ありません
意味深なテーマである。

多くの方が「どうせお前が何かやらかして患者さんを怒らせてしまったんだろ!」って思うんだろう。

しかし・・・

具体的に述べることは社会的影響力が懸念されるのでひかえるが、今回は私自身の仕事とは別の、プライベートなシチュエーションでの出来事に関することである。

私めと長い付き合いがあり、オイラのキレやすさを知る一部の方なら不思議でもないかもしれないが、最近の私はあまりキレないように心がけてもいるし、実際、心がけなくとも年とともに丸くなってきたことを自負していた。

その私が先日久々にキレちゃう出来事があったのである。
こんなに本気で怒ったのは本当に久しぶりである。

その体験を通して学んだこと・・・

① 単なるミス、気が利かない、もしくは悪意を感じさせる行為だけなら、多くは人をガッカリさせるぐらいで済む
② ①のシチュエーション(単なるミス、気が利かない、もしくは悪意を感じさせる行為)を、本人が認めない、又はフォローすべき立場の人間が適切に対応しない時、人は滅茶苦茶キレる

人間は失敗や過ちの度に、反省し、改善し、前に進んできた。

少なくとも自分は生涯そうありたい。

だから、そうでない人には違和感を感じ、キレてしまうのだろう。

容易に人にキレることは良くないと思う。
相手のコンテクストも充分理解し、なるべくキレないようにするべきである。

『人はなぜ怒るのか』で著者の藤井雅子先生は、究極にキレないコツは「相手に期待しないこと」と述べている。

自分が①のシチュエーションを許容できるようになった理由は分かった。
それは、期待してないから。
でも、せめてその人を管理する人には「こうあってほしい」という期待があるのだろう。

私は改善と進化を求める一人の人間であり、自分に関わる周りの方々にも、こうあって欲しいという暗黙の期待を持っている。

一人の人間であり続けるために・・・

その感情のエネルギーの炎を絶やさないために、たまにキレることは止めないようにしようと思う!