2012年11月8日木曜日

福島発 地域医療再生のキーワード:非常識と創生

傷つきまくりの福島の崩壊した地域医療を再生するためにはどうしたらいいか?
福島県立医科大学 医学部 地域・家庭医療学講座では、限られた人員ながらスタッフ一同、知恵のある者、ない者(=俺)、みんなで意見を出し合って今後のことを考えている。

医療従事者が減少した地域の医療現場では、残る医師や看護師に負担が集中する。その結果、ますます限界を感じて離れて行ってしまうというのが、医療提供スタッフ減少の負のスパイラルと考えられていて、まさに、今の福島は県全体がそのような状況に陥っている。

ゆえに、一旦 負のスパイラルに陥ってしまった地域の医療を再生することは、常識的に考えてヒジョ~に困難である。

だから、思い切って非常識的に考えてみた。

そもそも・・・

本当に地域医療は崩壊したのか?
再生させる必然性はあるのか?
素朴な疑問に立ち返った時、もともと地域医療と呼べるものは無かったんじゃない!
という結論に達した。

もともと無いのだから崩壊もしてないし、そんなもん再生する必要もない。

全く違うちゃんとしたものを新しく創る、つまり創生すれば良いのだ。

「創生」

なんかドキドキするよね、この響き。

そもそも地域医療は、電気・ガス・水道などのライフラインと同じく、日常生活の安定のために欠かせない、とっても公共なものである。
国民の生活がある限り、その網の目は隅々まで通っていなければならない。
ところが、これまでの仕組みでは、私的な医療機関は病院も診療所も好きな場所を選び、医師は好きな科と好きな働く場所を選び、それで満たされない部分を公的な医療機関が必死に人を集めて埋めている。
医療を提供する側が過酷な労働環境に耐えかねれば、そうでないところに自由に鞍替えできる。
当然、過酷な労働環境のところは、いつも人集めに奔走しなければならないという非常に不安定な供給体制である。
たしかに福島では原発事故の影響でその流れが一気に加速した。
しかし、もとのしくみを変えない限り、これは福島だけの問題ではない。

「いまのままでは、いずれ日本全域で福島と同じことがおきる」

いまこの場で、この時を過ごし、この現実を目の当たりにしている自分たちが、このことを強く発信し、死に者狂いで変えていかなければ、他に誰がやるか?

僕は生涯 福島の、いわきのライフラインとして生きていきたい。

なんて言うと格好つけてると思われそうだが、医療を志す以上、そんなこと誰もがあたりまえに持っている感情だと思う。
大事なのは、その個々の想いが実際の行動として活かせるしくみを創ること。

しくみを動かすことができる方々にお願いしたいことは、ライフラインとしての地域医療の整備をもっともっと公的な位置づけに誘導すること。
これは決して、公共事業を増やして無駄金を使うという意味ではなく、地域に必要な医療の内容と供給のバランスを整えるための陣頭指揮をとって欲しいということである。
既存のものをフル活用しつつ、今後の医療資源の配置には随時制限を加えていく。

そうしなければ、医療供給の偏在は益々顕著になるのは目に見えている。

病院での勤務を続けたいのに、過酷すぎるのでやむをえず開業する。
やむをえず開業した先生に診て欲しいか?
やむをえず開業した先生に質の高いプライマリ・ケアが提供できるか?
そもそも、もともとやりたくない仕事を情熱や使命感をもってやり続けられる人はいないだろう。
そんな不幸はもう沢山!

医療圏ごとに医師の定員を設けている英国に比べて、日本では医療供給の地域偏在が顕著である。自由開業制、開業医の専門分化などが地理的偏在を加速させているとおもう。
だからまず最初に、医療の供給体制を地域や診療科目ごとにデザインすればいい。
いわゆる医療過疎といわれる地域も含めて、はじめから必要な医師数を病院何名、診療所何名、〇〇科何名という具合に割り振ってしまうのだ。
諸外国が驚くほど短期間で水道や送電線を整備したこの国に、それが出来ないはずは無い。

これから医療を志す人たちには、地域住民のライフラインとして生き続ける覚悟をもってこの道に飛び込んできて欲しい。
医学部やその他、医療人を選考・育成する立場にある方々には、そういう人間であるか否かちゃんと見抜いて選考し、その資質を大切に育て伸ばして欲しい。
なりたい医師像と実際やっている仕事がマッチしていれば百人力!
それを生きがいと感じることができる人間の集団であれば、多少過酷な環境であっても、互いに支え合って楽しく頑張れるし、崩壊などするはずが無い。

幸いなことに、自分は今の状況の中で働くことは嫌いじゃない。
そして、同じ想いをもったアホな仲間もいる。
福島で働きながら学び、成長できること、そして「非常識」に「創生」なんて大それたことをいって盛り上がれることをありがたいと思っている。

2 件のコメント:

  1. 私は看護職について30年が過ぎました。看護師としてベッドサイドに長くいて自分の仕事に疑問を感じ、訪問看護も経験しました。そして管理職について、いま社会人大学院でMBA取得を目前にしています。まさにビジネスデザイン専攻で学びながら先生のご意見にたどり着き共感しております。地域再生といった著書や文献を医療系で検索しても、何か違和感というか、ピンときません。授業で「産業クラスター論」を学び、再生と創生の違いについて腑に落ちる意見をやっと見つけられた気がします。
    ご活躍を応援させていただきます。

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    1. 愚論へのコメントありがとうございます。
      今こそ日本がやり残してきたことを整備するタイミングなんだと思います。
      まちづくりや教育など、すべてやり直すぐらいの覚悟が必要だと強く感じています。

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