総合診療科を描く「19番目のカルテ」
昨週から始まったドラマ『19番目のカルテ』、みなさんご覧になりましたか?
総合診療医を主人公に据えたこのドラマ、私にとってはちょっと特別な作品です。というのも、私が「家庭医療」「総合診療」を学び始めたころの師匠が、このドラマの医療監修をされているからです。師匠は、この仕事を受けるにあたり「総合診療医がもっと世の中に知られて、たくさんの人を救えると信じている。医療界が少しずつより良くなるためなら、いくらでも協力する」と語ったとのことで、その信念が作品の温かさやリアリティに息づいているように感じました。
師匠の医療面接は、患者さんの発する言葉や表情やしぐさのすべてから得られる情報を的確に捉えて評価し、医師からのそれとない追加の質問の一言一句に重要な意味があり、その卓越した推察力・洞察力に感銘を受けるものでした。そして何よりも「一期一会の患者さん」を手ぶら(分からない)では帰さない情熱に驚愕したことは、いまでも忘れられません。
そんな先生が関わったドラマを見ていると、細部にこだわった医師と患者のやり取りの演出などから、当時の記憶が次々と甦ってきます。
総合診療科なんて、いわきでやっていけるの?
私が かしま病院に来たのは2002年のことでした。まだ「総合診療」なんて言葉は一般には浸透していなくて、正直、私自身も手探りの連続でした。
「内科?外科?結局どっちなの?」
「専門は何?専門がないってこと?」
「何でも診るって、そんな都合のいい話あるの?」
そんな質問を受けながら、それでも「患者さんの全体を診る医師がこの街には必要なんだ」と信じて、少しずつ診療を続けました。
ある時、どの科にかかればいいのか分からず困っていた高齢の女性が、「先生、どんなことでも相談していいのね」と安堵の表情を浮かべてくれたことがありました。その笑顔に背中を押されるようにして、「よし、この街に総合診療を根付かせよう」と覚悟を決めたものです。
何でも治せる医師はいないけれど、何でも相談にのって、解決の糸口を見出せるように、みんなで一緒に知恵を出し合うためのマネジメントはできるはず!
総合診療は、病院の外にも続く
総合診療医の仕事は、病院の中だけでは完結しません。退院後の生活や、家庭、地域全体まで視野に入れる必要があります。訪問診療や多職種カンファレンス、時には行政や福祉とも連携しながら、患者さん一人ひとりに合わせた医療を届ける…。
最近では、若手医師たちが「地域に溶け込みながら総合診療をやりたい」と言って、かしま病院に学びに来てくれるようになりました。彼らと一緒に診療する中で、「患者をまるごと診る、地域をまるごと診る」という文化が少しずつ定着しつつあることを感じています。
恩師の背中と、ドラマのリアル
『19番目のカルテ』を見ながら、若い頃に師匠から受けた指導を思い出します。
患者さんの言葉に耳を澄ませ、その人の背景を想像し、その人がより良く生きるため、生活を支えるために奔走する――。そんな総合診療医の姿がドラマの中にも確かに描かれていて、胸が熱くなりました。
いわきから広げたい総合診療の未来
総合診療医は、ドラマの中の徳重医師のように「どんな相談にも応えてくれるお医者さん」ですが、それ以上に「地域の人たちと一緒に暮らしを支える伴走者」だと私は思っています。
『19番目のカルテ』がきっかけで、「こんなお医者さんが近くにいたらいいな」と思ってくれる人が増えたら嬉しいです。そして、そんな総合診療医を目指す仲間がいわきの地にももっと増えていけば…それが私のささやかな願い、いや、大きな野望です(笑)。
#いとちプログラムできるまで
かしま病院は、基幹型で2026年度から「いとち総合診療研修プログラム」(通称:いとちプログラム)を立ち上げます。「い(医療)」と「ち(地域)」をつなぐ 新しい総合診療専門研修が始動します。
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