2011年1月16日日曜日

第86回常磐医学会

歴史ある常磐医学会で、下記のとおり拙い口演発表をさせていただきました。
限られた時間内に自分の思いを伝えきることの難しさを痛感しつつ、また頑張ろうと思います。
今回は、表向きには適切な診断が良い結果を招いたものですが、元はと言えば患者中心の医療の実践から派生したものでもあります。
ですが、今回は「家庭医らしさをあまり組み込めなかったなぁ~」と反省しています。




86回常磐医学会
2011116() いわき市医師会館
. 一般の部 『ケーススタディ』
1. 一般講演 演題2

『超高齢者の貧血に対するLow-Risk, High-Returnを目指したアプローチの一例』

○石井 1),2) 武田 1),2) 吾朗1),2) 中山 2) 高澤 奈緒美1) 田中 啓広1) 葛西 龍樹1)
1) 公立大学法人 福島県立医科大学 医学部 地域・家庭医療学講座
2) 社団医療法人養生会 かしま病院 内科

【目的】高度貧血を認める超高齢者に対し, 安全に実施可能(Low-Risk)なアプローチで、良好な臨床経過(High-Return)を得た一症例を報告する.【症例】93 女性.【現病歴】慢性の全身倦怠感を主訴に近医から紹介受診. 高度貧血(Hb 5.1 g/dl), 高度炎症所見を認めた. ①高齢, ②慢性, ③貧血, 高度炎症を一元的に呈しうる慢性炎症性疾患に鑑別を絞り込み, より特異的な病歴を聴取したところ, リウマチ性多発筋痛症の疑診基準を満たした.【経過】低用量PSL(10 mg/day)が著効しリウマチ性多発筋痛症と診断. 治療開始後, 貧血も軽快した.【考察】病歴および血液検査から得られた情報をsemantic qualifier(上記①~④)に置き換えたことで, High-Riskな検査を追加することなく鑑別疾患を絞り込むことができた. また, 高齢者の貧血の鑑別疾患にリウマチ性多発筋痛症を加えることは有用であると考えられる.

【キーワード】超高齢者, 貧血, Low-Risk/High-Return, リウマチ性多発筋痛症, semantic qualifier

2011年1月13日木曜日

ウィンター・レジデント・オリエンテーション in 福島 2011

ウィンター・レジデント・オリエンテーション in 福島 2011 が、保原中央クリニック家庭医療科フロアを会場に(飯坂温泉宿泊)、1月8・9日に行われました。
当講座のスタッフ、後期研修医、新メンバーらが、ますます充実の一年を目指して熱い議論を展開しました。
今後の福島で、さらにホットな家庭医療が展開されていくことを予感させる2日間でした。

内容は下記でした。
<1日目(1月8日)>
①「ようこそ家庭医療へ」(葛西龍樹教授)
講座として家庭医療の本質を追求していく姿勢を共有・確認しました。

②「各サイト研修状況報告」
当講座の各研修施設の研修医代表から、研修内容の報告がなされ、来年度の研修シフトについて議論しました。

③ Reflection of the month
「抗生剤使用の基本」~多剤耐性菌から病院を守るために~
(後期研修医1年目 山入端浩之)
家庭医に必要な抗菌薬の基礎知識ついて提示され、参加者間で知識を共有しました。

④ Cinemeducation「ラストサムライ」(葛西龍樹教授)
日本の近代化を題材にした映画の1シーンをとおして、世界標準の家庭医療を目指すとともに、日本の風土や伝統にマッチした家庭医療の開拓の重要性について議論しました。

⑤ 家庭医療先進地視察報告
「ハワイの家庭医療」(後期研修医2年目 若山隆)
日米の医療制度および医療コストの相違を中心に報告されました。
「シンガポールの家庭医療」(後期研修医3年目 武田仁、田中啓広 助教)
家庭医療研究のワークショップへの参加経験から得られた知見の共有がなされました。

<2日目(1月9日)>
①「ePortfolio運用に向けて」(後期研修医3年目 武田仁)
福島版ePortfolioのデザイン案が提示され、デモストレーションをとおして改良点などを議論しました。

②「ComFaM未来予想図」
来年度に向けて、今後の診療・教育・研究の指導体制、研修カリキュラムについて議論しました。

2010年11月1日月曜日

広報いわき11月号「健康教室」完全版

広報いわき11月号「健康教室」に「家庭医」について掲載していただきました。
紙面スペースの都合などで肝心な最後の段落が載りきらなかったので、こちらには完全版を載せました。

広報いわき(Web版)平成22年11月号(18ページ参照)

http://www.city.iwaki.fukushima.jp/kohoiwaki/5541/009418.html


「家庭医」とは? ~現代版“まち医者”~

古き良き時代、日本の地域医療を支えていた“まち医者”を思い浮かべてみてください。地域住民と継続的な人間関係を築き、患者一人一人の個性や家族の状況、さらには地域環境も把握し、幼児でも高齢者でも、また、どのような健康問題でも専門外などと言わずにとにかく診てくれる。呼ばれれば往診もし、必要なら夜中に診察することもある。こんな“まち医者”が家庭医の原型です。それに加え、最新の医学情報に基づいた医療を提供できる“まち医者”の進化型が「家庭医」です。しかし、今時このようなお医者さんはあまり見かけませんね。一体、それは何故なのでしょう?
医学の進歩により、医療の専門分野は急速に細分化し、患者さん側にも専門医による治療を求める傾向が強まりました。医学教育も縦割りの専門研修が中心となり、その結果、家庭医が育ちにくい研修環境になってきたのです。しかし、「医師不足」、「患者たらい回し」、「コンビニ受診」、「医療経済破綻」、「医療不信」などが社会問題となり、医療崩壊が進む現在の日本において、地域に発生するあらゆる健康問題に適切かつ効率良く対応し、地域住民と強固なパートナーシップを築き、地域全体の健康増進に継続的に責任をもつ家庭医は、地域医療の救世主として、その価値が急速に見直されるようになりました。
 実は、地域医療崩壊が特に深刻な福島では、地域医療再生のために全国に先駆けて、既に県ぐるみで家庭医育成に取り組んでいます。現在、家庭医を志す研修医たちが全国各地から集まり、いわき市を含む県内全域で、現代版“まち医者”になれるよう日々研修を行っています。

2010年10月29日金曜日

10月23日のFaMReFとその後・・・


7~9月の3ヶ月(三春、只見、いわき の計3回開催)に及んだFamily Medicine Resident Forum(略称:FaMReF)の特番「家庭医療レジデント・フォーラムin福島」も盛会のうちに無事終了し、今月から通常運転に戻った当講座の月1回定例のフォーラムFaMReFが郡山のランドマークタワー「ビッグアイ」にて開催され、熱い議論が展開されました。

今回は、ゲスト講師としてお招きした、三重大学大学院医学系研究科環境社会医学講座家庭医療学の竹村 洋典 教授をはじめ、今回はゲスト参加が多く、中でも関東から熱心な医学生(5年生)の参加もあり、終始にぎやかな雰囲気でフォーラムが進みました。

後期研修医が診療上の振り返りをもとにプレゼンテーションを行うReflection of the monthの1題目は「乳腺炎と母乳育児」と題し、後期研修3年目の五十嵐博先生が、家庭医らしく自身の家族のケアから得られた経験をもとに、乳腺炎・母乳育児に関する基礎知識が提示し、その中で、参加者間で母乳育児のメリットを共有し、母乳育児のサポートシステム確立にむけて家庭医の役割について議論がなされました。

Reflection of the monthの2題目は「Conflict」と題し後期研修4年目の高栁宏史先生が、親しい患者のケアの中で生じる家庭医としての葛藤について提示してくれました。それを通して家庭医の役割について再確認する議論がなされました。

さて、続いて今回のメインイベントに移り、「行動科学の世界を旅する」-人々の行動、医師の行動がいかに健康に影響するか-と題して、竹村 洋典 先生が我々を楽しい旅に連れて行ってくださいました。患者中心性および患者満足度と健康アウトカムについての関連について、慎重な検討・考察と今後の診療上の戦略について議論がなされました。講演の中で、かなり衝撃的な研究結果が示され、その後の懇親夕食会でも白熱した議論の的となりましたが、その内容は内緒です。知りたい方は、ぜひFaMReFはじめ当講座の各種イベントにいらしてくださいね。

続いて家庭医療先進地(オランダ・イギリス)視察報告が、高澤奈緒美 助手、清水健伸(後期研修医1年目)、山入端浩之(後期研修医1年目)から提示されました。データ管理の電子化や医療情報提供サービスに代表される診療をサポートするシステムを有する家庭医療先進地の視察報告がなされました。

さて、議論が白熱すると時間がなくなるもので、恒例の葛西教授によるCinemeducationは時間切れにより中止になってしまいました。次回のお楽しみということで・・・
FaMReFに参加してくれた学生さんは、何と熱心なことに休暇を利用して引き続き当講座の家庭医療後期研修教育およびホームステイ型医学教育プログラムの拠点である“いわき地区”にホームステイと見学実習に来てくれました。
大学病院では学ぶことのできない地域医療を、若い感性で熱心に吸収し学んでくれてとても嬉しかったです。
それと、うちの家族(特に子供ら)を激しくかまってくれてありがとう!
とても助かりました。
週末は周辺の観光!
長い海岸線を持つ“いわき”なのに、なぜか「海よりも山川の方が癒されるんです」という彼女の一言で行った先は夏井川渓谷「背戸峨廊」と巨大鍾乳洞の「あぶくま洞」でした。
日頃、足腰を鍛えてないと、こんな時に心地よい全身痛が数日後に襲ってくるものです・・・(笑)

2010年10月22日金曜日

いわき青年会議所 10月公開例会

いわき青年会議所の方々は、自分の大切な人を守るために、日々熱心に活動してくださっています。
そんなわけで、本日の企画を勝手に宣伝させていただきます。
《 いわきの医療問題解決に向かって 》
10月22日(金) 18:00~開場 18:30分開演
場所・いわき芸術文化交流館アリオス中劇場

第一部 『 いわきの医療問題解決へ向けての実践 』 
        『 子宮頚がん撲滅に向けて』 いわき市立総合磐城共立病院 本多つよし先生 講演
第二部 『 美しく健康に生きる 』 タレント 秋野暢子さん 健康講演

第三部 『 医療問題解決に向けて私達に出来る事は? 』 両氏による対談

いわき青年会議所 市民協働委員会が、全精力を結集していわき市民に問いかけける。

テーマ: 大切な人を守るために今すぐにはじめよう!

入場料 500円

お問い合わせ いわき青年会議所事務局 0246-24-0780 お問い合わせ 平日 10:00~16:00

2010年10月14日木曜日

「家族志向型ケア ⑥」

今回は、「家族志向型ケア」の2番目のコンポーネントである「家族という大きな枠組みの中にある患者の立場に焦点を当てる」なかで必要な「ファミリー・ライフサイクル」について解説します。
家族の抱える問題は、家族の在り方が発展していく過程を段階別にとらえることでより見えやすくなります。若者が家を出て独立し、カップルとなって結婚。妊娠して子供が生まれ、小さな子供のいる家族となり、やがて子供は思春期を迎え、独立し、両親は熟年期に入っていく。子供の出て行った家庭では年老いた夫婦が死と悲嘆を経験していく―。そして、それぞれの段階の移行期に多くのストレスが発生することが、さまざまな研究によって明らかになっています1)。それぞれの段階には家族の乗り越えるべき課題があり、それがうまく解決出来ない時に、さまざまな症状に表れることがあります。この中にはいわゆる不定愁訴と呼ばれるものも含まれ、そのような場合には往々にして医師を受診しても「なんでもない」「気のせいだ」と言われたり、次々と別の医師を受診して回るドクターショッピングを繰り返したりしがちです。
家庭医療では、その人がファミリー・ライフサイクルのどの段階にいるのかを考え、そこでの課題をうまく乗り越えられているのかをチェックすることが重要になります。例えば、青年期では、家族や地域社会で良い人間関係を築けているか、社会人として仕事にうまく順応できているかということが問題になってくるし、子供が巣立った後の夫婦では、自分たちの今後の生活について再考すべき時期でもあり、病気や死について気持ちの準備が出来ているかも問題になってきます。これらの課題が解決できないために、ストレスとなってしまうことが多いのです。

1)家庭医療 ~家庭医をめざす人・家庭医と働く人のために~ 葛西龍樹著 ライフメディコム社より

「家族志向型ケア ⑦」

今回は、「家族志向型ケア」の残りのコンポーネント「患者・家族と医療者がケアのパートナーになる」「医療者が治療システムの一部として機能する」「家族もケアの対象である」について一気に解説します。
「患者・家族と医療者がケアのパートナーになる」については、患者・家族と医療者がお互いに一方通行にならずに、両者が同じ理解基盤に立って信頼関係を持つ必要があります。医療者が一方的に治療を施そうとするのも、逆に総てのケアを家族に放任してしまうのも、パートナーシップとは言えません。もちろん、このようなパートナーシップはすぐに確立できるものではなく、皮肉にも、患者さんの容体が悪化して家族と医療者が「一緒に危機を乗り越えよう」と頑張った時に強化されやすいようです。
次に、「医療者が治療システムの一部として機能する」とは、いろいろな職種のスタッフがケアにかかわるときに、ケアのシステム全体がより良く機能するために自分に何ができるかを考え、行動することが重要だということです。ケアにかかわるすべての人々が協力し、ケアのシステムを構築していくことで、「自分のみがケアの主役だ」と思いこむことも、「指示されたことだけをすればよい」と思うことも避けられます。それぞれが、それぞれの視点から問題をとらえ、評価し、みんなで相談して計画を立て、責任を持って自分の仕事を遂行し、その成果を評価し、改善計画を立てることの繰り返しが求められます。
最後の「家族もケアの対象である」ということは非常に大事なことでありながら、しばしば見過ごされています。しかし、患者の危機を乗り越える時、家族と家庭医はパートナーであり、そのパートナーが傷ついていれば、そのことを見逃してはいけないのです。例えば、配偶者や親の介護にともなう不眠や疲労などを訴える家族のケースが増えています。家庭医の強みは、担当できる問題の広さゆえ、どんな家族の問題にも耳を傾け、対応してケアできることです。介護からくる疲労、心痛によって発生する疾患の予防や早期発見にも努めていきたいと思います。