2018年12月16日日曜日

「大人の学び盛だくさん」 ~140th FaMReF in 大原綜合病院~

学習について学びを深めるユニークな企画!






大人の学びって、経験によって必要に迫られて、問題を解決するために、自ら目標を立てて、取り組むわけで、とても主体的で能動的!
カリキュラムがきっちり決まっている義務教育とは真逆ですね。

冒頭のレクチャーでは、ホスト病院である大原綜合病院の菅藤賢治先生が、Uirich Boser 著の「Learn Better」学びの6つのステップを紹介してくれました。

1. 価値を見いだす
何故それをしようと思うのか? その意味を自ら発見する。

2. 目標を決める
学習の効率を高めるために、目標を設定し思考の質を上げる。

3. 能力を伸ばす
学びの過程をモニタリングし、外部からのフィードバックを受ける。

4. 発展させる
人に教えるつもりで実際にやってみる
不確実性を受け入れ、多様性のある環境をつくる

5. 関係づける
たくさんの具体例を学び、それらの関係性を推論する。

6. 再考する
過信を捨てて、実は自分は分かっていないことを知る
静かな環境で内省する必要性
そして繰り返し学ぶ

ある意味、当たり前のことで、日頃 無意識下でやっていることですが、こうやって言語化してみると、それ自体が格調高くて、アカデミックな感じになりますね。
これを踏まえて参加者らが日頃の学習の経験を語り合いましたが、みんなそれぞれ限られた時間の中で、臨床上の疑問に工夫・模索しながら対応していることが分かりました。

今回の専攻医の振り返りは、Significant Event Analysis:SEA 形式でおこなわれました。
SEAは、事例や症例に関して当事者が深く振り返り、言語化し、今後の改善に対する提言をするという下記の流れで実施します。

1.significant event の記述
2.最初に考えたこと、そのときの感情
3.うまくいったこと
4.うまくいかなかったこと
5.こうしたらよかったと思うこと
6.次のアクションプラン、学びの計画

今回は、現在のかかりつけ医への相談なしに、直接受診(初診)となった患者さんへの対応についての振り返りでした。
こんな時、医師としてどんな気持ちになるでしょうか?
私はどうしても陰性感情を抱きがちです。
しかし、そういう行動に至った患者さんには、必ず何らかのコンテクストが潜んでいます。
このような状況下で、いかに ニュートラルな気持ちで対応できるか?
むしろ、やりがいをもって対応できるか?
わたし自身にとっても深い省察にもなるテーマでした。

2018年12月15日土曜日

家庭医療/総合診療 ウィンター・フォーラム 2018 @福島県立医科大学

「家庭医療/総合診療 ウィンター・フォーラム 2018」@福島県立医科大学
サマー・フォーラムの盛会を受けて、今年は学生・研修医向けに冬にも熱い学びの機会を企画したところ、20名を超える外部参加申し込みがあり、にぎやかなフォーラムとなりました。

家庭医療/総合診療の真髄と醍醐味を、多くの若者に出来るだけ早く深く知って欲しいという講座スタッフらの熱量が結晶となり、いずれのセッションも誰にでも分かりやすく家庭医療/総合診療を体験・イメージできるようによく準備された内容でした。

医学部低学年の学生さんも含め、幾つかのワークを通して皆さんとても積極的にディスカッションしてくれて、家庭医療/総合診療が、ごく当たり前に重要で魅力的でやりがいのあるものとして受け入れられつつあることを肌で感じ、とても感慨深かったです。





2018年12月9日日曜日

学び合い ~いわき志塾~

2018年12月8日。
いわき志塾の講師として所属専攻医を派遣させていただきました。
今回は、医療・法律・スポーツのスペシャリストからインプットされた人生観を中学生が聴き、次に中学生らがそれぞれの感性で咀嚼し、得られた知見やパワー・フレーズをチームごとにまとめていきます。
最後に参加者全員に各チームが5分間に凝縮してプレゼンします。
今回は1・2年生率が高く、初参加の生徒も多かったのですが、中学生たちの、ポイントを捉えサマライズしていく能力の高さに驚愕しました。
また、今回の講師陣はバラエティーに富んでいてとても楽しかったです。
専攻医本人も自身の人生を振り返り、志の高い中学生の熱量に触れて、とても良い刺激になったようです。
おまけに、日常業務では指導医も気付きにくかった彼女の隠れた才能を、志塾を通して開花させていただきました。 数多の学びの機会を与えてくださった現役中学生と教育委員会の皆様に心より感謝申し上げます。




2018年11月29日木曜日

多彩な学びの足跡 ~実践家庭医塾~


今宵の実践家庭医塾では、臨床研修医2名が それぞれの経験事例をもとに学んだことを自由にプレゼンしてくれました。

K先生は、浜通り特有の危機的な救急医療事情に驚きつつ、社会的な問題にまで広げて考察し、一般の方が救急車を適正利用できるように開発された全国版救急受診アプリ「Q助」を紹介してくれました。

T先生は、脳梗塞と思いきや神経梅毒?という若干Dr. G的な変化球事例を紹介してくれました。梅毒の急増が問題視されていることを鑑みると、今後このような事例は必然的に増えてくるかもしれません。脳血管障害を疑う切迫した状況下で、性交渉にかかわるデリケートな質問をどのように進められるか?いろんな意味で示唆に富む事例でした。

閉塾後に、1ヶ月の地域医療研修修了セレモニーが挙行されました。
理事長から修了証書と寄せ書きが授与され、プチ・サプライズといった感じでした。



2018年11月18日日曜日

在宅医療に必要な知識と技術を学ぼう ~139th FaMReF@ほし横塚クリニック ~

まず、在宅医療に関する制度的な内容や郡山市における現状や取り組みについてレクチャーがありました。
訪問診療のニーズがある時に、かかりつけ医が積極的に在宅医療に取り組みやすい社会やシステム、ネットワーク創りの重要性を再認識し、いわきで取り組んでいる在宅医療ネットワークを、更に推進していくことが重要だと思いました。

次に、在宅でのポケットエコーの活用法についての紹介があり、だいぶ注目されるようになってきている肺のエコーについても解説してもらい、いつでも、どこでも、誰のどこにでも使える気軽さで、ますます活用していきたいと思いました。

次に、ほし横塚クリニックにおける訪問診療の現状について報告がありました。
入院治療の限界と考えられ、退院時に予後不良と評価されていた患者さんが、自宅退院・訪問診療導入後に、ご家族の献身的な介護などに支えられ、生き生きと過ごすことができて復活し、結局 元気になったという印象的な事例が紹介されました。関わった人達が、それぞれの役割を果して、きめ細やかな対応をして、すべての歯車がかみ合った結果、在宅療養のメリットが最大限に発揮されたようです。

ホストの ほし横塚クリニック家庭医チームは、なんともアットホームな感じで、日頃の診療もあたたかみに溢れている のだろうな~ というのが連想できました。




2018年11月1日木曜日

「おひとりさま」をケアするということ… ~実践家庭医塾~

今宵は、SDF(超医師〇〇)氏が、天涯孤独な患者さんと関わった経験事例から、健康の社会的要因の影響をダイレクトに受けやすい「おひとりさま」のケアについての省察を発表してくれました。


一般的に健康の社会的決定要因には以下のものがあります。
①社会格差
②ストレス
③幼少期の環境
④社会的排除(少数民族・外国人・身体障害者、避難民・ホームレス等)
⑤労働(裁量権のない環境等)
⑥失業
⑦社会的支援
⑧薬物依存
⑨食事
⑩交通
⑪検診受診率
その他の新たな問題となる可能性がある要因として…
・ジェンダー(LGBTQなど)
・難民・移民・留学生
・思想(SNSを含む)
・雇用の流動性・不安定性
・高齢化

直接的な診療という形でのサポートがしにくい事例では、家庭医だけの力では如何ともし難いところ…
社会を動かす大きな力が必要です。

日本プライマリ・ケア連合学会でも、実は地味に下記の内容の「健康格差に対する学会の行動指針」を示していることが紹介されました。
1) あらゆる人びとが健やかな生活を送れるように社会的な要因への働きかけを行い、健康格差の解消に取り組みます。
2) 社会的要因により健康を脅かされている個人,集団,地域を認識し、それぞれのニーズに応える活動を支援します。
3) 社会的要因に配慮できるプライマリ・ケア従事者を養成し、実践を通して互いに学び合う環境を整えます。
4) 健康格差を生じる要因を明らかにし、効果的なアプローチを見出す研究を推進します。
5) あらゆる人びとが、それぞれに必要なケアを得られる権利を擁護するためのアドボカシー活動を進めます。
6) 上記 1-5 を達成するために、患者・家族および関係者や関係機関(専門職・医療や福祉の専門機関・地域住民・支援ネットワーク・NPO、行政・政策立案者など) とパートナーシップを構築します。
(日本プライマリ・ケア連合学会の健康格差に対する見解と行動指針)

何とも壮大な話ではありますが、生活習慣病などの疾患でも、患者個人のがんばりだけでは解決しにくい、生活背景に潜む隠れた健康リスクを洗い出したり、独居高齢者の生活支援など、社会的サポートが得られるのに 受けていない ということはないかチェックしたり…
こういった部分は家庭医として果たすことができる役割なのではないだろうか?というTake Home Messageで、SDF氏のプレゼンは締めくくられました。

2018年10月28日日曜日

リッツ・カールトンに学ぶ地域医療創生

 2018年10月25日。人とホスピタリティ研究所所長の高野登先生を講師にお迎えして「いのちの現場とおもてなしの心」〜医療従事者における接遇とは〜 と題し、社団医療法人養生会接遇特別講演会がパレスいわやで開催されました。


 高野氏は各ビジネス誌やレジャー誌で常にトップクラスの評価を得ているリッツ・カールトン・ホテルの元日本支社長で、従業員に“おもてなしの極意”を徹底的に叩き込んでこられた人物です。高野氏は、最高のおもてなしとは、設備でもマニュアルでもなく“人の価値”だと言います。たとえ、豪華な建物と完璧なサービスマニュアルがあっても、そこに企業の熱いパッションが根底に流れていなければ、ホテルが単なる宿泊施設の域を超えることはなく、企業の“心”と“魂”が従業員を通してお客様に伝わって初めてホテルはひとつのブランドへと昇華されると言うのです。


 講演の冒頭で高野氏は最高の笑顔で「仕事は一生かけて人格を形成するためのもの」と断言されました。そして、その神々しく揺ぎ無い姿に圧倒され「これまでの自分は仕事を通してきちんと人格を鍛えてきただろうか?」と深く猛省させられる、まさにハッとした瞬間でした。高野氏は続けて“サービス”と“おもてなし”との違いを明確に定義づけしました。サービスとは、いつでも・どこでも・誰にでも提供する、客との契約に基づく商品であり、徹底したマニュアル管理により質を担保することができます。一方、おもてなしは、個々の客の、その時・その場における固有の状況を丁寧に観察し、客がどんなことを望み、何を必要としているかを想像し、マネジメントを創造した者にだけ提供できる、今だけ・ここだけ・あなたにだけの特別なものです。相手の心に自分の心を寄り添わせて、相手の立場になって対話する姿勢そのものであり、一人ひとりの相手が求めているものの違いに気づき、感じ取る“感性”が必要になります。その先に互いの“感動”と“感謝”が生まれ、決して飽きることなく、やりがいをもって何度でも繰り返したくなる善循環へとつながっていきます。


 講演を聴きながら、医療におけるサービスとおもてなしについて考えました。医療におけるサービスはもちろん診療行為です。これは徹底したマニュアル管理により、提供内容の標準化や質の向上、医療ミスの低減が図れるかもしれません。また、手術等の専門的技能は、経験を重ねるごとに技術が習熟されていくでしょう。しかし、こういったマニュアル化しうる領域は、おそらく人工知能(AI)の得意分野でもあり、AIの守備範囲は日進月歩で拡大し、医療従事者の役割は今後縮小していくでしょう。ホテル業界でも接客のほとんどをロボットに任せている「変なホテル」という名のホテルが登場しているぐらいですから…。一方、医療におけるおもてなしとはどのようなものでしょうか? 例えば同じ疾病の患者さんであっても、その病気の体験(苦しみや恐れの程度や内容、置かれている境遇など)は、患者さん一人ひとり異なるし、更に家族をはじめとする患者さんを取り巻く人々や社会環境は千差万別です。これらの固有の事情に配慮して、患者さんがどんなことを望み、何を必要としているかを想像し、マネジメントを創造して、今だけ・ここだけ・あなたにだけの特別なケアを提供することが医療におけるおもてなしであり、これぞまさに患者中心の医療そのものなのではないでしょうか?


 ところで、リッツ・カールトンの従業員は何故ここまで情熱を持って、おもてなしを追究し続けられるのでしょうか?先ずはリッツ・カールトンの公式ホームページに掲載されているクレドと呼ばれるホテルの信条を紹介します。『リッツ・カールトンはお客様への心のこもったおもてなしと快適さを提供することをもっとも大切な使命とこころえています。私たちは、お客様に心あたたまる、くつろいだ、そして洗練された雰囲気を常にお楽しみいただくために最高のパーソナル・サービスと施設を提供することをお約束します。リッツ・カールトンでお客様が経験されるもの、それは感覚を満たすここちよさ、満ち足りた幸福感、そしてお客様が言葉にされない願望やニーズをも先読みしておこたえするサービスの心です』一読すれば誰もが一度泊まってみたくなるような魅力的な内容ですね。リッツ・カールトンには、仕事をすることの意味は何か?ということを、組織的に継続的に考えさせる仕組みがあり、高野氏もその答えを追求する中で、人は誰でも本当に人様のお役に立てたときは輝いているということが見えてきたと言います。「お客様に喜んでいただけることが自分にとって生きる力になります」リッツ・カールトンのスタッフは誰もがこう口にするそうです。そして、世の中のお役に立てたと実感できたとき、実はその本人の心が鍛えられ成長するのだそうです。そうやって心の筋トレを繰り返しながら「人の心に寄り添い、思いを感じる力」をつけていき、仕事が楽しくて仕方がなくなっていくようです。
 心の筋トレをしたいなら、いわきは実はメチャメチャやりがいのある場所です。立ち去り型サボタージュによる人材不足の悪循環に陥っているいわきの医療界においても、リッツ・カールトンのおもてなしの精神は適用できると思います。そのためには各医療機関がそれぞれのクレドを再確認し、全職員が一丸となって使命を果たしていくことが必要です。私自身の所属法人であるかしま病院のクレドは一言でいうと“めんどうみのよい病院”です。具体的には、家庭医療を基本とする医療と介護の融合した病院、在宅復帰・在宅医療に取り組む病院、かかりつけ患者や病院周辺地域の救急の受け入れ・増悪時の対応を行う病院です。幸いなことに、このクレドに掲げられた内容は、私が一生かけてでも成し遂げたいことそのものです。今はまだまだ全然できていなくても必ず創りあげます。
 高野氏から発せられる言葉は一言一句すべてが私たちに勇気と活力を与えるものでしたが、講演の終盤で飛び出した「悪循環も善循環も回すのに必要なエネルギーは変わらない」という言葉が胸に刺さりました。「それなら逆回転させればいいじゃん!」と思いました。みんなが力を合わせて悪循環を逆回転させるのはいつか?今でしょ!(古ッ! 苦笑)


時空を超えてミッションを叫ぶ! ~138th FaMReF~

本日の只見開催の家庭医療レジデント・フォーラムは、220 km 余りの道のりを超え、TV会議システムを利用して、いわきから参加させていただきました。
担当患者さんの病状を鑑みると遠出しにくい状況でしたので、光回線のこの武器はとてもありがたいです。


さて、今回は、制度、組織、業務改善、経営など、運営に関する内容がメインテーマとなりました。
とても大きなテーマです。
大きいがゆえに、日々の活動の全体像を振り返り、原点回帰するのにとても良い機会となりました。
あらためて、所属法人のミッションと自身が成し遂げたいことが一致していることを再確認し、そして、それは自分の人生にとってとても幸運なことであると再認識しました。

また、福島県を訪問中のデンマークの家庭医Susanne先生ご夫妻が、デンマークの家庭医療制度について紹介してくださいました。デンマークではリスト・システムによって、かかりつけの家庭医が決められ、家庭医はゲートキーパーとしての役割を担い、高い国民幸福度を支えているようです。

2018年10月24日水曜日

今こそ闘いの時! ~総合診療みちのくプロレス~


 20181013日、みちのく総合診療医学センターを見学させていただきました。



 みちのく総合診療医学センターは、宮城県塩竈市の地域医療支援病院である坂総合病院を中心として、中小の地域病院、診療所も含めた教育フィールドをもち、救急医学、病院総合診療、家庭医療、在宅医療など、東北の総合診療を担う様々な分野を担う医師を育てることを目指し、2012年に以下の目的で設立されました。

    診療所・小規模病院の家庭医療、総合病院の総合診療を担う医師を育成
    ジェネラリスト医師の教育・研究の拠点となり、目指すべき医師像を探究
    理想の地域医療を追求することで、東北の医療に貢献

 みちのく総合診療医学センターは、しばた協同クリニック院長の小幡篤先生をセンター長として、医療福祉生協連家庭医療学開発センター長で日本プライマリ・ケア連合学会理事の藤沼康樹先生をアドバイザーに迎え、活発な診療・教育・研究活動が展開されています。代表的な学習・省察の機会として、総合診療カンファレンス、レジデントデイがあります。

<総合診療カンファレンス>
毎週火曜日の午後、主に総合診療科と救急科に入院中で研修医が担当している症例を中心にカンファレンスを実施しています。研修医が診断や治療、退院に向けて苦労しているケースについて、救急、総合診療、家庭医療、感染症、循環器、脳神経外科を専門とする指導医からアドバイスをもらいながら、医学的な問題はもちろん、患者さんが抱える心理・社会的な背景を含めて包括的に検討していきます。

<レジデントデイ>
 アドバイザーの藤沼康樹先生を招いて月1回レジデントデイを坂総合病院や古川民主病院などで開催し、レジデントの1ヶ月間の振り返りを行っています。毎月の目標と評価、外来・往診・入院症例ログ付け報告、外来・往診診療ビデオ記録での検討、Clinical Jazz、総合診療関係のテキストの読み合わせなどを行います。その他、藤沼先生からのレクチャーやEBM指導なども行っています。外部からの参加もオープンにしています。

今回の視察では、基幹病院である坂総合病院で開催されたレジデントデイに参加させていただきました。参加者は16名(専攻医3名、指導医10名、見学者3名)で、専攻医一人ひとりから、1ヶ月の振り返り(省察)、ポートフォリオ発表、ビデオレビュー等がなされ、それぞれに対し、指導医から丁寧なフィードバックがあり、専攻医らが次へのステップへ向けた具体的な目標を設定できるように配慮されている点に感銘を受けました。

視察を終えて、まず、福島県立医科大学 地域・家庭医療学講座が提供する福島県立医科大学総合診療専門研修プログラムとの比較検討をしました。
共通点としては、日々の研修を多施設に分かれて行っている専攻医らが、各種通信手段を駆使して情報共有しながら、定期的に一堂に会し、高い水準の学びを享受できるように配慮されているということです。
相違点としては、福島県立医科大学総合診療専門研修プログラムの拠点となる研修施設がすべて中小の医療機関であり、それぞれが広大な福島県内の別々の医療圏に属しているため、各拠点研修施設間の診療上の連携は殆どないのに対し、みちのく総合診療医学センターは、100年以上の歴史を持つ塩竃市の地域密着型の坂総合病院を基幹病院として、3つの小規模病院と2つの診療所が互いに連携し、急性期から慢性期・生活期までの幅広いフィールドでの研修が提供されています。一方、福島県立医大のプログラムでは、県内各地の拠点研修施設を中心として、その地域ごとにその地域の実情に合わせた新たな地域包括ケアシステムの構築に取り組むことができるというチャレンジングな魅力があります。
このことを踏まえ、いわき市で、家庭医・総合診療医を育成するネットワークを構築し、魅力ある研修環境を提供するためには、2008年から家庭医療専攻医の受け入れ実績のある養生会かしま病院が、めんどうみのよい病院を目指して展開する地域包括ケアシステム(いわき地域・家庭医療センター構想:かしまモデル)を存分に活用し、近隣の診療所と連携しながら、予防・診断・治療・リハビリ・在宅医療・福祉・介護についてシームレスに学べる環境を整備するために、多施設が研修の質の向上のためにオールいわきで協力していくことが不可欠であると考えました。

10年かけてようやく蕾が膨らみつつあります。今こそしっかりと花を咲かせ、これからの10年で結実させます。

どうやら、死に者狂いの闘い(みちのくプロレス)の時が来たようです。

2018年10月18日木曜日

キューバしのぎも継続すれば結実する

 2018年10月16日~18日の3日間、キューバ家庭医学会会長のLilia González Cárdenas先生(通称Lili先生)がいわきに滞在し、かしま病院を視察されました。いささか唐突な出来事のように感じられるかもしれませんが、今回の訪問前からLili先生と当院との間には既に深い縁と絆が存在していました。福島県立医科大学 地域・家庭医療学講座では、例年新任初年度のメンバーを対象に、家庭医療先進地視察を行っています。実は当院の渡邉聡子医師、藤原学医師も、家庭医療先進地視察として2015年2月にキューバを訪問しました。その時に大変お世話になった人物の一人が、Lili先生というわけです。
 キューバの人口は約1,100万人で国土は日本の約1/3、社会主義国として知られていますね。1人当たりのGDPは日本の1/6程度でありながら、平均寿命や乳児死亡率は先進国並みです。「えっ、そうなの?」と意外に思われる方もおられることでしょう。なぜ、お金がないはずのキューバで高い医療水準が実現できるのでしょうか?
 キューバのヘルスケアシステムは、全国民を対象に患者負担は全て無料!4万人近くの家庭医がいて、地域ごとのコンサルトリオ(家庭医と看護師がペアで働く診療所)を基盤に、ポリクリニコ(各科専門医、歯科医、臨床心理士と統合医療を含めたプライマリ・ケアを提供する24時間外来診療施設)と円滑な連携をとり、更に高次医療機関(大学病院・研究施設)を持つピラミット型システムです。コンサルトリオでは、家庭医と看護師1人ずつがペアとなって、担当地域380世帯、約1,200名の住民を対象に家族単位の医療サービスを提供しています。診療録には、病歴のみならず、経済状況、家庭関係、生活環境の評価も記載され、また予防に重点をおいて、検診やワクチン接種の受診状況および結果をすべてテータ管理しています。健康教育や医療費節約の喚起、年2回の家庭訪問による生活・衛生環境の指導も行われ、まさに地域密着型の医療サービスが展開されています(渡邉聡子医師による視察報告から抜粋・編集して記載)。
 さて、かしま病院はLili先生の目にどう映ったのでしょうか?訪問診療同行で、海外でもお馴染みの「おしん」に出てきたような日本家屋を訪問できたことが最も印象的だったらしいことはさておき、地域密着型の「めんどうみのいい病院」を目指してコンサルトリオとポリクリニコの役割をハイブリットで担いながら、多職種が力を合わせてそれぞれの能力を発揮し、超高齢社会の急場をしのいで生き抜いている様にとても感銘を受けられたようでした。私たちのキューバしのぎがいつか実を結び、家庭医療を基盤とする医療と介護が融合したヘルスケアシステムが円滑に機能し、地域住民の皆さんに定着・貢献できることを夢みて歩み続ける覚悟を固めた出来事となりました。



2018年9月21日金曜日

「アンガーマネジメント」 ~後悔するような怒り方をしないために~


2018920日開催の実践家庭医塾において、アンガーマネジメントについて講義をさせていただきました。アンガーマネジメントとは、1970年代に犯罪更生目的に米国で始まった怒りを予防し制御するための心理療法プログラムであり、怒りを上手く分散させることができると評価されています。感情の中でも特にマイナスな結果を引き起こす原因となりがちな「怒り」に正しく対処することで、健全な人間関係をつくり上げる知識・技術を修得することを目的としています。
みなさんは、怒りをもてあましていませんか?キレやすい性格の私は、怒りの感情を抑え切れずに失敗したこと数知れず、日々イラッとして思わず不機嫌な対応をしてしまったり、ムカッときて、つい言わなくても良いことを言ってしまったり、相手の理不尽な言動に、思わず下手な怒り方をしてしまいます。古代ギリシャ哲学の巨人、アリストテレスですら「怒ることは誰にでもできる。ただ怒るのは簡単なことである。しかし、適切な相手に、適切な程度に、適切な場合に、適切な目的で、適切な形で怒ることは容易ではない」という言葉を残しています。
アンガーマネジメントは、決して怒らない技術ではありません。そもそも「怒り」はなくせません。アンガーマネジメントは、どうでもいいことで怒ったり、後悔するような怒り方をしない技術であり、ムダに怒らずに「怒り」の感情を上手に受けとめて、マイナスのエネルギーをプラスに転換するものです。
ひとは誰かの言動や出来事に遭遇した時に、それぞれの価値観や当たり前と思っているルールと照らし合わせて、それがどういうことなのかを考え意味づけをします。その結果、それが許せないものであれば怒りが発生します。しかし、各々の価値基準は一人ひとり異なるため、自分の理屈や一般常識は他人には必ずしも通用しません。このギャップが怒りの原因となるわけです。裏を返せば、人は一人ひとり違っていることを当然のこととして受け入れ、自分の価値観や常識を押し付けることなく、相手を思いやりながら、許容範囲を広げることができれば、怒りの多くをマイルドなものに抑えることができるのではないでしょうか?
また、怒りによる衝動的言動をコントロールするための重要なスキルに「6秒ルール」というものがあります。脳内で怒りの感情が発生しても、6秒間我慢できれば理性が介入し、怒りが静まってくるというものです。つまり、呪文でもルーチンな動作でも何でもよいので、個々の性格に合わせて、とにもかくにも6秒間やりすごす術を準備しておけば、衝動的言動で最悪の事態を招くことを回避できるでしょう。
家庭医塾では、参加者の皆さんの怒りの体験をもとに、何が許せなかったのか?どうすればより良い対応ができたのか?などを振り返っていただきました。キレやすい私とは違って、多くの方々が無意識下で既にアンガーマネジメント出来ていたことを知り、とても感心しました。今後は診療の場だけでなく、職場での人間関係や教育、プライベートに至るまで、アンガーマネジメントを意識して日々精進してまいります。


 久しぶりのご褒美の打ち上げ!
 怒りと上手に向き合うことができると何か良いことがあるものです。

2018年9月15日土曜日

ときめきの秋 ~第137回 FaMReF~




「ときめきの秋」
~悩める10代、オレらが診なきゃ誰が診る!?~

こんなタイトルで喜多方市家庭医療センター「ほっときらり」で開催された家庭医療レジデント・フォーラム
自身の青春時代を振り返りながら、思春期の患者さん特有のコミュニケーションにおける困難を感じた時、特に話をしてくれない時に考慮するべきことは何か?
話したくないのか? 話ができる雰囲気を作れていないのか? はたまた親から口止めされていないか? 話したいけどうまく表現できないのでは?
話をしてくれないという場面ひとつとっても、様々な配慮を要します。
心身症においては、身体的因子や心理社会的因子を起点に、症状へのとらわれ、二次的不安(予期不安)を来たし、不安・抑うつ、行動障害へと悪循環を招いていきます。
このことを打開していくためには、非常に多くの時間と労力を要するでしょう。
それゆえに、思春期の患者さんの診療を得意とする臨床家はほとんどいないと思います。
だからこそ、家庭医として小児期からの患者の家族背景、心理特性、個性などを把握し、常日頃から患者-医師関係を築いておくことが重要だと思います。


全体的な印象としては、用意された教育セッションはもとより、青春の甘酸っぱさを意識した喫茶コーナーなど、遊び心もある良く準備された企画だなぁ~と感じました。
準備してくれた喜多方のメンバーに感謝します。

2018年8月26日日曜日

家庭医の視点から地域へアプローチする ~第136回 家庭医療 レジデント・フォーラム~


第136回 家庭医療 レジデント・フォーラムの会場となった保原は、恒例の伊達ももの里マラソンで賑わっていました。
猛暑を考慮して、1時間前倒しのスタートとなりましたので、フォーラムに先立って選手の応援がてら沿道を伴走し、自身のトレーニングも済ませました。
マラソン大会がある日は、街中を変態が占拠していますので、ガチな格好でガチ走りしていても全然浮かないのでありがたいです。

今回のフォーラムは、家庭医として どのように地域志向のプライマリ・ケアを実践できるだろうか?を考える機会となりました。
直接診療に関われない人達も含め、地域における課題を見つけ、そこにフォーカスしたアプローチができれば、効率の良い策が打てるのではないかと思います。
現場の課題を解決するために誰と協働することが有効かを見極めて、行動してもらえるように調整していくことが重要だと思います。

2018年7月24日火曜日

家庭医療レジデント・フォーラム in ふくしま 2018(第135回 FaMReF)

 2018年7月21日・22日の両日、福島県立医科大学 医学部 地域・家庭医療学講座の主催で毎年夏期に行われる「家庭医療レジデント・フォーラム in ふくしま」が福島県立医科大学を会場に開催されました。この企画は、家庭医療・総合診療の専攻医を主な学習者対象としている講座月例の家庭医療レジデント・フォーラムよりも、より若い世代(医学生・初期研修医)にも、家庭医療の魅力を分かりやすく紹介しながら、家庭医のシゴトを深く理解したり、疑似体験学習してもらったりすることを目的としています。幸いなことに、家庭医療に興味を持ってくれた20名程の医学生らが全国から参加してくれました。これほど多くの医学生が、このイベントに参加してくれたのは初めてです。特筆すべきは、その過半数が福島県立医科大学の現役医学生でした。これは、非常に重要な意味をもつと思います。
 福島県立医科大学では、2006年から全国に先駆けて本格的に家庭医育成に取り組み、いち早く医学生に対する系統講義も始めました。家庭医・総合診療医の役割が広く認識され始めている現在ですら、家庭医療に深い興味を抱いてくれる医学生は決して多くはない印象です。そんな中、今回のような盛会に至ったのは、決して偶然でも、単なる幸運でもないものと確信しています。
 家庭医療は大学にとっても新しい挑戦。大学の他科のスタッフの認知度も低いところからのスタートとなります。ぶっちゃけ、他科の先生方から見て「あいつら一体なにやってんだか分んない!」と思われていたことでしょう。無理もありません。他科の先生方は学生時代も医師になった後も、家庭医療を学ぶ機会がなかったわけですから、、、。その魅力も専門性も重要性も必要性も理解し難いかもしれません。一方で、私たちは医学生・初期研修医への家庭医療の教育を地道に実直に真剣に取り組み続けて来ました。彼らが家庭医療・総合診療への道の門を叩くか否かを問わず、彼ら一人ひとりに家庭医療の魅力・専門性・重要性・必要性を熱く伝え続けて来ました。その結果、他の科を選択した若手医師の中にも、家庭医の役割を充分に理解し、私たちを信頼して協働してくれる動き・空気を実感できる今日この頃になりました。
 私用で2日目(厳密にいえば1日めの懇親会)からの参加となりましたが、専攻医による渾身のロールプレイを交えたワークショック「家庭医は患者をこう診ている」を通して、医学生たちが活き活きと家庭医を演じてくれている様子を高見の見物させていただきながら「ガシガシ種を蒔き続けてきて良かったな!」と、静かに目頭を熱くしていました。




2018年7月12日木曜日

最新・最良のエビデンスと患者の想いを紡ぐ芸術 ~実践家庭医塾~

今宵の実践家庭医塾のプレゼンは、臨床研修医と指導医との二本立て!

無症候性高尿酸血症へのアプローチはどうするか?
シンプルでよく経験する状況だけど、エビデンス的にも未だ結論が出ていない上に、個々の患者さん毎に、その他のリスクや背景は千差万別。
当然、患者中心の医療の方法を駆使して、患者の想いを紡ぐ職人技が必要です。
推奨される二次予防投薬を受け入れてくれない患者さんとどう向き合うか?
こちらはやや複雑で難しい状況ですが、やはり、患者中心の医療の方法を駆使して、患者さんが歩んできた長い病気の経験・物語を紐解いて、丁寧に紡いで行けば、突破口が見い出せるかもしれません。
難しい状況でも、いや、難しい状況だからこそ、諦めずに患者さんと関わり続ける努力と根気が試されます。家庭医療は生涯修行が必要な職人技なので、まさにゴールのない芸術の世界です。

2018年7月1日日曜日

ようこそフラの街へ! ~第4回 北海道・福島 合同 FaMReF 兼 第134回 家庭医療レジデント・フォーラム @ ハワイアンズ~

2018年6月30日・7月1日の両日、いわきが誇るテーマパーク「スパリゾートハワイアンズ」において 第4回 北海道・福島 合同 家庭医療レジデント・フォーラムが開催されました。
このフォーラムは、2015年に始まった北海道家庭医療学センターと福島県立医科大学 医学部 地域・家庭医療学講座との交流企画です。
今回は、北海道家庭医療学センター理事長の草場鉄周先生からリクエストをいただき、北海道の皆さんをいわきにお招きすることができました。
更に嬉しいことに、日本プライマリ・ケア連合学会理事長の丸山泉先生ご夫妻も、スペシャルゲストとしてセミナーに駆けつけてくださいました。
ホストサイトとなった「かしま病院」からは、指導医レクチャーと専攻医の振り返りの2セッションを担当しました。
指導医レクチャーでは、当院スタッフ(劇団かしま)がシナリオから演出、出演、撮影等のすべてを担当した名演(迷演?)動画を教材に、参加者の皆さんには、映像をもとにした限られた情報から想像力を駆使して、患者さんの病気の体験・物語に寄り添っていただきました。
準備段階では、どうすれば各グループが議論しやすいか悩みましたが、蓋を開けてみると、放っておいても議論は膨らむ一方で、与えられた時間だけでは全く足りない事態となり、嬉しい悲鳴となりました。いただいたフィードバックから、働く場所は違っていても、家庭医療という共通言語を共有する仲間が目指すところは、やはり一緒なんだということを再確認することができました。
一方で、普段用いている教育手法には若干の相違もあるようで、大変勉強になりました。
専攻医の振り返りでは、丸山理事長を含む多くの皆さんから数多のご質問やご意見・激励を頂戴し、駆け出しの専攻医にとってとても贅沢な時間になりました。議論に華を咲かせてくださった皆さんに感謝申し上げます。

さて、思えば16年前。
母校から故郷のいわきに戻り、たった一人で細々と家庭医療を始めました。
ずっと一人なんだろうな~
それでも続ける覚悟をもってやっていました。
そんな中、2006年3月に当時北海道家庭医療学センター理事長だった葛西龍樹先生が、福島県立医科大学教授に就任され、かしま病院での専攻医の受け入れが2008年から始まりました。
そして今回、30名を超える家庭医の皆さんをいわきにお迎えできたことはとても感慨深く、胸に込み上げるものがありました。
地域のプライマリ・ケアを担うコミュニティー・ホスピタルとして、家庭医の医育施設として、かしま病院が担うべき役割は大きいと改めて感じました。