ドラマ『19番目のカルテ』最終話を見届けて
いやあ、ついに終わってしまいましたね。
『19番目のカルテ』、毎週ワクワクしながらテレビの前に正座していた方も多いのではないでしょうか。(私だけか…)
最終話、胸に刺さったシーンがありました。
他科の先生たちが、総合診療科の若手を支えてくれる場面。
更に…。
「優しさだけでは医療は成り立たない。だけど、優しさをなくしたら、私たちは医療をできなくなる」
「自分ではない誰かに、ほんのちょっとだけ優しくなる。それだけで充分!」
いやもう、ズルいですよね。
現場にいる私たち医師にとっても、患者さんや地域のみなさんにとっても、ずっしり響くフレーズです。
ドラマではイケメン、現実はフツー
ちなみに現実の総合診療医は…ええ、ドラマのようにイケメン揃いではありません。
(むしろ私なんかは、普通以下すぎて「え、先生もドラマ出てたんですか?」なんて聞かれると困ります。出てるわけない!)
ただ、私たちが日々奮闘しているのは本当です。患者さんの「この症状、何科に行けばいいの?」という迷いを受け止めること。生活や家族の背景ごと診ること。そして、ときに「全部まとめて診るのが、私たちの仕事です」と胸を張ること。
ドラマと現実のあいだで
ドラマの医療監修を務められたのは、実は私をこの世界に誘ってくださった師匠である生坂政臣先生。
私は偉大なその背中を追いかけてきた数多の人間の一人です。
ドラマを通して、総合診療という仕事が「かっこいい」だけでなく、「人間らしい」営みだと伝わったなら嬉しい限りです。
ドラマの中で描かれていたのは、総合診療医がただ病気を治すだけでなく、患者さんの人生や地域、そして若い医師たちの未来まで支えていく姿。
その一つひとつの場面が、かつて私自身が師匠に導かれた経験と重なって見えました。
ロケット花火だった若き日の私
2000年ごろの私は、まるで“ロケット花火”のような若手医師でした。
目を離すと、どこに飛んでいくか分からない。指導医の先生方はさぞ困ったことでしょう。
でも、生坂政臣先生という師匠は違いました。
「危なっかしいやつだ」と見限るのではなく、私の中にある燃料を見抜き、宇宙に飛んだ後に無事日本に帰って来られるように絶妙に舵をとってくださったんです。
今の私がここで地域医療に取り組んでいるのは、その師匠のおかげです。
良い総合診療医が、良い総合診療医を育てる
今日の最終回でも感じたのは、総合診療医は患者さんだけでなく、次の世代の医師を育てる存在でもあるということ。
“良い総合診療医が、良い総合診療医を育てる”――この循環こそが未来を支えるのです。
私もまた、受け取ったバトンを次の世代につないでいきたいと思います。
総合診療医は「なんでも屋」じゃない
総合診療医に対しては、こんな声を耳にします。
- 「なんでも診れるわけないじゃないか」
- 「誰でもできる仕事でしょ」
でも実際は違います。総合診療医は“全部自分で治す人”ではありません。
たとえるなら――
- ラーメン屋さん、寿司屋さん、パン屋さんを全部知っていて、ぴったりの店に案内できる“町の食通”。
- 壊れた電気製品を持ち込めば、とりあえず治すか、必要なら専門業者につないでくれる“町の電気屋さん”
そんな存在です。
病気だけでなく、生活や家族、地域の背景まで含めて“人まるごと”を診るのが、総合診療医の仕事です。
世界の常識、日本のこれから
実は世界では、総合診療や家庭医はプライマリケアの中心。これが当たり前であり、医療のグローバルスタンダードです。
でも日本では、まだ「よく分からない科」と思われがち。
だからこそ、このドラマで全国の多くの方に総合診療を知っていただけたのは、とても大きな一歩だと思います。
「こういう先生が近くにいたら安心だな」と思っていただけたなら、それだけで大成功です。
私は、かつてのロケット花火時代を支えてくださった師匠のように、これからも地域で、患者さんやご家族の“なんでも相談所”でありたいと思います。
困ったときに「とりあえず相談してみよう」と思える医者。
そんな存在が、あなたの町の総合診療医です。
ドラマが終わっても、総合診療の物語はまだまだ続きます。
どうぞこれからも、身近に感じていただけたら嬉しいです。
優しさと医療
最終話の台詞にあったように、医療に必要なのは技術や知識だけではありません。
もちろん優しさだけで病気は治せません。でも、優しさを失った瞬間、医療はただの作業になってしまいます。
それは医師にとっても、患者さんにとっても、あまりに不幸なこと。
ですから私たちは今日も、診療の現場でちょっとした おやじギャグも交えつつ、優しさを手放さないようにしています。
テレビの中の物語は今夜で幕を閉じました。
でも、いわき市や地域のみなさんの「19番目のカルテ」は、これからも続いていきます。
ドラマをきっかけに、総合診療科を「ちょっと気になる存在」と思っていただけたら、それだけで私たちの励みになります。
(フツー顔に満たない感じの総合診療医より)