彼のご自宅は、もろにオーシャンビューな永崎海岸沿いにあり、無論 今回の津波で甚大な被害を受けた。
ご本人もペットの亀さんも波に襲われながら助かったとのこと…
近隣は更地になっているところも多く、建物が持ちこたえたのが不思議な状況である。
当初、近隣の方々が、惨状を目の当たりにして途方に暮れていた時、彼は真っ先に自宅の復旧に努め、周囲を勇気付けたという。
そんな彼に進行した癌が見つかったのは今年6月のこと。
けれど、彼は癌が発覚した後も、ずっとダンディーで格好良く、最後まで欠かすことがなかった独特の憎まれ口が僕は好きだった。
終末期に入り、老老介護のため、入院で疼痛管理などの緩和医療を行なっていたが、最近では意識状態も不安定になっていた。
何度か「何かなさりたいことは?」と問いかけても、なかなか明確な回答をくれなかったのだが…
「自宅で大宴会を開いて、みんなに御馳走したい」
最後の願いだった。
急遽、在宅酸素とポータブル吸引器、介護タクシーを手配し、医師同伴で自宅への外出作戦を決行したのが昨日のこと…
外出中の大半はグッスリと穏やかにお休みになっていたが、会が盛り上がると、震災時に九死に一生を得た愛亀を嬉しそうに抱き、ご自身も焼酎を一口二口と味わい、ご満悦の様子だった。
もう5年以上の付き合いになり、彼のことは随分知っているつもりだったけれど、宴会には僕が知らない数え切れない人々が訪問した。
各々が彼を気遣い、感謝の言葉を伝え、涙している姿を見るにつけ、彼が必死に復旧させ、命懸けで帰りたかった家と、人間の大きさを見せつけられた気がした。
日頃、患者さんの背景にある家族や地域を意識し理解するように励んでいるつもりであっても、やはり百聞は一見に如かずということを痛感した。
彼のご冥福と、ご家族のご健康を こころよりお祈り申し上げる。