この度の台風19号では、かしま病院職員も30名近く自宅の浸水被害に遭いました。その中には同僚の総合診療科医師2名が含まれます。彼らの居住地域にあるすべての診療所が甚大な被害を受け、通常の診療を再開できる目途が立たない状況となっています。しかし、市内全域の医療機関の約9割が一時機能停止に陥った東日本大震災の発災直後とは状況が異なり、市内の医療機関のほとんどが通常通りの診療を継続出来ている今回は、自力で移動ができる患者さんであれば他院を受診することが可能です。避難所を利用すれば、巡回している医師・薬剤師・保健師等のチームが、適切な医療が受けられるよう支援することもできます。ところが、今回は発災から一週間の時点で、避難所の利用者数が被災地域の居住者数に対して一割にも満たないようです。これは、被災地域近隣が大規模な断水に見舞われ、避難所が比較的遠方に設置されていることに起因していると思われます。自家用車の水没により移動手段を失った方々や、もともと移動が困難な災害時要支援者(災害弱者)は、やむなく自宅の2階に留まっていて、持病の薬が無くなって困っていたり、心身の疲労から体調を崩したりしているかもしれません。
このような問題点をいち早く認識し、行政や医師会などの関係団体に現場の状況を報告し、救援を求めてくれたのが、1メートルを超える浸水被害を受けて自宅の片づけをしていた当院の家庭医たちでした。彼らの現場からの声はすぐに行政を動かし、対策本部の現地事務所と救護所が設置され、現地に居ながら正確な情報の入手と医療や入浴などの生活基盤を確保することができるようになりました。災害後には急性および慢性の身体的・精神的健康問題が発生し、長期にわたりプライマリ・ケアの利用が増加することが報告されていますが、家庭医は被災者の心身の健康ニーズに対応するために適しています。まだまだ復旧まで多くの時間と労力を要しますが、地域に生き地域のために働くことができる家庭医が最前線で活躍しているのはとても心強いことです。