2011年3月8日火曜日

いわき地域・家庭医療センター

平成23年度4月にオープンする「いわき地域・家庭医療センター」について取材を受けました。
この内容は、社団医療法人養生会の月刊新聞「かしまホットホット通信」3月号の巻頭特集で取り上げていただきました。
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「かしまホットホット通信」3月号
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http://www.kashima.jp/hothot/hothot2011.image/2303p2.pdf


「いわき地域・家庭医療センター」オープンにあたって

今回は、今年4月に「クリニックかしま」内にオープンする「いわき地域・家庭医療センター」について、福島県立医科大学 医学部 地域・家庭医療学講座(以下 当講座)の教官として、いわき地区をはじめ県内各地の家庭医療学専門医コース研修協力医療機関に赴いて研修医の指導を行っているasshi先生に伺いました。

「地域・家庭医療センター」とは、どのようなものなのでしょうか?

asshi:当講座が管理・運営する「家庭医」の診療・教育・研究の拠点の総称です。2008年度からすでに稼働している北福島の他、いわき・三春・喜多方・相双地区など県内各地でオープン準備をしています。

家庭医」とは、どんなお医者さんですか?

asshi:古き良き時代、日本の地域医療を支えていたまち医者を思い浮かべてみてください。地域住民と継続的な人間関係を築き、患者一人一人の個性や家族の状況、さらには地域環境も把握し、幼児でも高齢者でも、また、どのような健康問題でも“専門外”などと言わずにとにかく診てくれる。呼ばれれば往診もし、必要なら夜中に診察することもある。丁度、N先生(現養生会名誉理事長)みたいなお医者さんですね。そんなまち医者が家庭医の原型です。それに加え、最新の医学情報に基づいた医療を提供できるまち医者の進化型が家庭医です。しかし、今時このようなお医者さんはあまり見かけませんよね?

はい、確かに。最近、なんでも相談できる先生は少なくなった気がしますが…一体、それは何故なのでしょう?

asshi:医学の進歩により、医療の専門分野は急速に細分化し、患者さん側にも専門医による治療を求める傾向が強まりました。医学教育も縦割りの専門研修が中心となり、その結果、家庭医が育ちにくい研修環境になってきたのです。しかし、医師不足、患者たらい回し、コンビニ受診、医療経済破綻などが社会問題となり、医療崩壊が進む現在の日本では、地域に発生するあらゆる健康問題に適切かつ効率良く対応し、地域住民と強固なパートナーシップを築き、地域全体の健康増進に継続的に責任をもつ家庭医は、地域医療の救世主として、その価値が急速に見直されるようになりました。実は、医師不足・偏在が特に問題となっている福島県では、地域医療再生のために、既に県ぐるみで家庭医育成に取り組んでいます。このような背景から全国の医科大学に先駆けて2006年に産声をあげたのが、当講座です。現在、家庭医を志す研修医たちが全国各地から集まり、いわき地区を含む県内全域で、現代版まち医者になれるよう日々研修を行っています。

家庭医の養成が、クリニックかしま・かしま病院(以下“かしま”)でも行われているのですね?

asshi:はい。家庭医療学専門医コース研修協力病院として、2008年度から家庭医を志す研修医を受け入れていただいています。その他、県内各地でも順調に研修が進み、若い家庭医たちが次々に育っています。お陰さまで、“かしま”を含む県内各地の家庭医療研修施設を舞台に地域・家庭医療センターを随時オープンできる運びとなりました。

ところで、どうして“かしま”なのでしょう?臨床研修はもっと大きな病院でやるイメージですが…

asshi:はい、確かに初期研修や専門医研修の多くは、大学病院かそれに準じる基幹病院、いわきでは磐城共立病院のような大病院で行われます。大病院には稀な疾患であったり、重症であったりと、より専門的治療を要する患者さんが集まるので、専門的な治療技術のトレーニングには適しています。しかし、日常よく遭遇するあらゆる健康問題に対応できる家庭医になるためには、疾患領域を問わず頻度の高い疾患を数多く経験することが必要です。例えば、水泳を覚えたくてゴルフ場に行く人はいないですよね。

はい。

asshi:そう、実際に泳げる場所じゃないと水泳を習得するのは難しい。それと同じで、これまでの日本には家庭医になるための適切な研修の場がなかったのです。家庭医になるための能力を磨くには、大病院内での専門技術研修ではなく、日常よく遭遇する問題に常に触れられる環境が必要なのです。

そこで、いわきでは“かしま”が良いのですね?

asshi:まさにその通りです。“かしま”は大病院とは異なり、受診する患者さんの多くは日常よく遭遇する問題を抱えてきます。これは、家庭医が将来能力を発揮すべきフィールドにより近いために、家庭医療の研修に適しています。
実は“かしま”が良い理由は他にもあります。

それは何でしょうか?

asshi:元来、かしま病院は1983年「地域医療の中核となる医療機関を」との声から地域開業医10数名が結束して立ち上げたと聞いています。法人理念の「地域医療と全人的医療の実践」を目指し、地域のための医療機関として予防・診断・治療・リハビリ・在宅医療・福祉の質の向上に職員一丸となって努力していると思います。“かしま”は、患者さんだけでなく、その家族、彼らを取り巻く地域全体を包括してケアする能力が求められる家庭医の研修にとって最適な環境なのです。

この狭い日本で本当に家庭医は必要なのでしょうか?これまで通り適宜各科専門医を受診すれば良いように思いますが…

asshi:確かに、日本の医療の良い点として、比較的自由に専門的な医療が受けられるということが挙げられますが、裏を返せば、医療を利用する患者さんが何科にかかるべきか自分で判断しなければいけないという短所にもなります。例えば「胸が痛い」という症状で直接循環器科を受診する患者さんがおられますが、胸痛の原因として頻度が高いのは、消化器科領域の逆流性食道炎、呼吸器科領域の肺胸膜炎や自然気胸、整形外科領域の肋骨骨折や筋肉痛、皮膚科領域の帯状疱疹、その他、肋間神経痛、精神科領域の鬱病やパニック発作、不安神経症などです。実は循環器疾患が原因であることは意外に少ないのです。医学に関する知識のない患者さんに、どの科にかかればいいかを判断をしてもらうのは、決して容易なことではないと私は思います。

確かに、どこの科にかかったら良いか分からない時がありますよね。

asshi:受診する科を患者さんが選択しなければいけない場合に、困ることは他にもあります。発生した健康問題が1つだけならまだ良いのですが、高齢化の進んだ現代では、複数の健康問題を同時に抱える患者さんが増えています。これら全てに責任を持って同時に1人で管理してくれる家庭医がいたらいいと思いませんか?

確かに、足腰が弱った高齢者が、沢山の医療機関を掛け持ちで受診するのは大変ですよね。送迎も必要ですし、薬も飲みきれないほど増えますし…身近に何でも相談できる先生がいたら安心です。これから“かしま”で家庭医が育っていくのが楽しみですね。
「地域・家庭医療センター」オープン後、具体的に変わる点は?

asshi:外来患者さんの多くを家庭医が担当することになりますが、利用される方にとって極端な変更点はありません。安心してこれまで通り受診してください。何科にかかれば良いか分からない場合は、迷わず家庭医を受診してください。その際は「こんなこと医者に聞いてもいいのかな?」などと遠慮せず、どんな悩みでもお話しください。きっと親身になって相談にのってくれるはずです。そして彼らの成長を暖かい目で見守っていただければ幸いです。

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