2013年2月5日火曜日

試験対策もどき ~プライマリ・ケア認定医試験~

2012年11月に受験した、日本プライマリ・ケア連合学会 プライマリ・ケア認定医試験の合格通知をいただいた。
そんな大事な知らせなのに、到着してから数日、開封されることもなく自宅で放置されていて、下手すればゴミ箱行きだったかも知れないところが我が家らしいところ・・・

で、自身が合格したということは、私が「こうしてよかった」「これを書いてよかった」と感じたことは、あながち間違いではないということが判明したので、これから受験される方々のために、試験対策もどきを綴りたいと思う。



形式:MEQ(Modified Essay Question)試験
2時間で必須4題+選択2題の6題(1題あたり20分配分)
鉛筆と消しゴムを武器に、無い知恵絞って書きまくる感じで、あっという間の2時間
個人的には、自由記載のため、書いておきたいことが次々に沸いて出てきて、120分あっても案外忙しい印象


<必須分野>
①日常病(急性期・慢性期)
42歳女性。慢性咳嗽のマネージメント!
頻度が高い鑑別疾患として、副鼻腔炎、咳喘息、アトピー咳嗽、胃食道逆流症、百日咳、ACE阻害薬の副作用などが挙げられることと、鑑別するために必要な病歴聴取、それぞれの治療薬の選択ができるかどうかが問われた。
「頻度が高い」という縛りがあったので、いきなり、肺がんや肺結核を念頭にした精査という方針を記載した方は、加点が少なかったものと思われる。

過去の出題としては、気管支喘息発作時の対応、胆嚢ポーリープのフォローアップ計画、ヘリコバクターピロリ感染症への除菌療法などがあり、日常診療で頻度の高いシチュエーションや疾患の診断の鑑別・標準的治療に関する基本事項を整理しておくとよいと思う。

②高齢者・在宅医療
91歳男性。老衰の在宅看取りに関する問題
悪性腫瘍、臓器不全、老衰、突然死、それぞれの終末期にたどる経過の有名な図
Patterns of Functional Decline at the End of Life
JAMA. 2003;289(18):2387-2392. doi:10.1001/jama.289.18.2387.
が示され、老衰の時にたどる低空飛行から着地する曲線を選択する問いがあった。

次の問いは、もろにプライマリケアの基本理念“ACCCA”の理解と問うものであった。
ACCCA”を、この高齢者の在宅看取りにおいて、具体的にどのように適用していくのか?
例えば、Accessibilityといっても、単に自宅と診療所が近いというだけでなく、医師が自宅に訪問するフットワークの軽さや心理的近接性を示す。とか、Comprehensivenessといっても、単に患者さん自身の病状を包括的に診るということだけでなく、その心理的・霊的な部分を含み全人的に、更にそれを支える家族や社会を含めて包括的に!とか、ContinuityAccountabilityと言っても、単に患者さんのお看取りまで責任を持って継続的に診るということだけでなく、残された家族への死後のケアも含む。とか、この問題を出されてしまうと、書きたいことが次々に溢れ出て、とてもありがたい半面、時間は足りなくなる。

過去の出題としては、認知症などがあり、認知症の中核症状・周辺症状が問われたり、「確認するべき情報は?」のような問いの時には、高齢者総合的機能評価(CGA)の項目を覚えておくととても役に立つと思う。
家庭医療専門医試験の実技試験では、介護保険申請のための主治医意見書がスラスラ書けることが求められるのは有名な話。

③患者教育・慢性病
50歳男性。禁煙指導の問題
「禁煙指導のための標準手順書第5版」から下記が問われた。
<「ニコチン依存症管理料」の保険給付の要件>
・直ちに禁煙しようと考えている
・ニコチン依存症スクリーニングテスト(TDS)による診断(TDS:5点以上)
・ブリンクマン指数:200以上
・禁煙治療への文書による同意
<初回診察時に説明・確認すべき項目>
・評価結果の確認
・呼気CO濃度測定等の客観的評価
・禁煙開始日の設定
・禁煙開始のあたっての問題点の把握とアドバイス
・禁煙補助薬(ニコチン製剤・バレニクリン)の選択と説明

過去の出題では、健診異常を理由に受診した患者さんにおける問題点を抽出し、高血圧・脂質異常症・糖尿病などの具体的な診断・管理手順はもとより、禁煙指導など予防的介入などにも積極的である姿勢があるかどうかを問われるものが多いようだ。

④EBM
英語の論文
Effects of eicosapentaeonic acid on major coronary events in hypercholesterolaemic patients(JELIS): a randomized open-label, blinded endpoint analysis.)
の抄録を読んで、研究デザインやPECOが読み取れるか?研究結果を自身の診療に適用する際に、臨床的意義と統計的意義の相違や、患者背景の違い、アウトカムの相違、バイアス、利益相反の開示の確認、など批判的吟味が出来るか?という感じで、例年英論文を通してEBMの基本的知識が問われている。つまり、抄録にそのものズバリの解答が書いてある。


<選択分野>
以下より2分野を選択
問題を確認してから解けそうなものを選択できるので、一通り学んだ方のほうが有利か
家庭医療専門医試験の場合はすべて必須!

①小児医療
小学1年の男児。咽頭結膜熱の診断(迅速キットを含む)、治療(対症療法)、飛沫感染を考慮した伝染予防の指導、学校保健法で第二種伝染病に分類され、主要症状消退後2日経過するまで出席停止。このあたりが問われた。

過去の出題では、やはりインフルエンザ等の急性発熱や熱性けいれんなど、頻度の高い急性感染症&合併症に対する、診断・治療・患者(保護者)への指導、ワクチンの知識などが試験のヤマになっているようである。

②メンタルヘルス
52歳女性。震災で肉親を失った方のメンタルな病状の解釈とサポートに関する問題。
通常の悲嘆反応に、うつ状態、不安障害、睡眠障害が合併していると思わるケースであったが、そう判断した根拠も含めた記載が求められた。
また、著明な体重減少をともなっていることに対して、身体疾患合併の可能性の評価の必要性を指摘すること、社会・心理的支援の必要性や利用可能な医療・福祉資源の中での具体的な方略が問われた。
最後に、抗うつ薬・抗不安薬による、投与量を含めた具体的な初期治療計画例も問われた。

③緩和ケア
83歳男性。胃癌の終末期のケアに関する問題
ケアを開始するにあたって必要な情報、アセスメントについて問われた。
食欲・食事量、睡眠、排泄、入浴などのADLIADLの把握。介護保険申請の状況、自宅環境、趣味、死生観、癌性疼痛の状況などが求められた。
癌性疼痛に対する薬物療法(具体的な初期投与例も含む)に関して、麻薬の副作用や対策など基本的事項が問われた。

過去の出題でも、WHOの疼痛ラダーなどの疼痛管理の基礎、患者さんの総合的評価、利用できる心理・社会的サポート、グリーフケアを含む家族へのケアなどが問われているようだ。

④ウイメンズヘルス
70歳女性。尿失禁に関する出題!
一般的な尿失禁の分類(腹圧性尿失禁の鑑別病態として 切迫性、溢流性、機能性、反射性など)、既往歴・基礎疾患や常用薬の確認や排尿回数・1回尿量などの詳細な病歴聴取による診断手順、行動療法(骨盤底筋訓練・膀胱訓練など)や薬物療法などによる腹圧性尿失禁の初期治療戦略などについて問われた。

過去の出題では、更年期障害とその併存疾患(うつ状態など)、ホルモン補充療法の適応や禁忌、風疹やHPVなどの各種ワクチンに関する知識などが問われている。




全体を通して思ったことは、回答数が指定されている(それ以上書くと減点対象になる)問題以外は、出題の意図かもしれないと思ったことなら何でも書いておいた方がお得だということ。その内容が妥当であれば、仮に出題の狙いから外れていても、加点対象になる可能性が高い。
プライマリ・ケア領域で用いられている各種診療ガイドラインは、受験時に日本で用いられているもので良いので、最新のものの概要は、ガイドラインの名称と合わせて知っておいた方がいい。加えて、外来管理に影響をあたえるようなトピックス(HbA1cにおけるJDSNGSPへの変更など)や、新規導入薬(ダビガトランなど)に関する知識は、おさえておく必要がありそうだ。
どの設問にも共通して言えることは、常日頃から患者中心の医療の方法や高齢者総合的機能評価など、質の高いプライマリ・ケアの提供を意識した診療をしていれば、たとえ詳しくない疾患が出題されたとしても、何も書けないということはなさそうである。
つまり、質の高いプライマリ・ケアを提供できる能力が、そのまま試験合格につながりやすい。そのように設計された良問であると感じた(私見)。

1 件のコメント:

  1. 私の場合,あと一年で間に合うかしら…

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