2010年10月29日金曜日

10月23日のFaMReFとその後・・・


7~9月の3ヶ月(三春、只見、いわき の計3回開催)に及んだFamily Medicine Resident Forum(略称:FaMReF)の特番「家庭医療レジデント・フォーラムin福島」も盛会のうちに無事終了し、今月から通常運転に戻った当講座の月1回定例のフォーラムFaMReFが郡山のランドマークタワー「ビッグアイ」にて開催され、熱い議論が展開されました。

今回は、ゲスト講師としてお招きした、三重大学大学院医学系研究科環境社会医学講座家庭医療学の竹村 洋典 教授をはじめ、今回はゲスト参加が多く、中でも関東から熱心な医学生(5年生)の参加もあり、終始にぎやかな雰囲気でフォーラムが進みました。

後期研修医が診療上の振り返りをもとにプレゼンテーションを行うReflection of the monthの1題目は「乳腺炎と母乳育児」と題し、後期研修3年目の五十嵐博先生が、家庭医らしく自身の家族のケアから得られた経験をもとに、乳腺炎・母乳育児に関する基礎知識が提示し、その中で、参加者間で母乳育児のメリットを共有し、母乳育児のサポートシステム確立にむけて家庭医の役割について議論がなされました。

Reflection of the monthの2題目は「Conflict」と題し後期研修4年目の高栁宏史先生が、親しい患者のケアの中で生じる家庭医としての葛藤について提示してくれました。それを通して家庭医の役割について再確認する議論がなされました。

さて、続いて今回のメインイベントに移り、「行動科学の世界を旅する」-人々の行動、医師の行動がいかに健康に影響するか-と題して、竹村 洋典 先生が我々を楽しい旅に連れて行ってくださいました。患者中心性および患者満足度と健康アウトカムについての関連について、慎重な検討・考察と今後の診療上の戦略について議論がなされました。講演の中で、かなり衝撃的な研究結果が示され、その後の懇親夕食会でも白熱した議論の的となりましたが、その内容は内緒です。知りたい方は、ぜひFaMReFはじめ当講座の各種イベントにいらしてくださいね。

続いて家庭医療先進地(オランダ・イギリス)視察報告が、高澤奈緒美 助手、清水健伸(後期研修医1年目)、山入端浩之(後期研修医1年目)から提示されました。データ管理の電子化や医療情報提供サービスに代表される診療をサポートするシステムを有する家庭医療先進地の視察報告がなされました。

さて、議論が白熱すると時間がなくなるもので、恒例の葛西教授によるCinemeducationは時間切れにより中止になってしまいました。次回のお楽しみということで・・・
FaMReFに参加してくれた学生さんは、何と熱心なことに休暇を利用して引き続き当講座の家庭医療後期研修教育およびホームステイ型医学教育プログラムの拠点である“いわき地区”にホームステイと見学実習に来てくれました。
大学病院では学ぶことのできない地域医療を、若い感性で熱心に吸収し学んでくれてとても嬉しかったです。
それと、うちの家族(特に子供ら)を激しくかまってくれてありがとう!
とても助かりました。
週末は周辺の観光!
長い海岸線を持つ“いわき”なのに、なぜか「海よりも山川の方が癒されるんです」という彼女の一言で行った先は夏井川渓谷「背戸峨廊」と巨大鍾乳洞の「あぶくま洞」でした。
日頃、足腰を鍛えてないと、こんな時に心地よい全身痛が数日後に襲ってくるものです・・・(笑)

2010年10月22日金曜日

いわき青年会議所 10月公開例会

いわき青年会議所の方々は、自分の大切な人を守るために、日々熱心に活動してくださっています。
そんなわけで、本日の企画を勝手に宣伝させていただきます。
《 いわきの医療問題解決に向かって 》
10月22日(金) 18:00~開場 18:30分開演
場所・いわき芸術文化交流館アリオス中劇場

第一部 『 いわきの医療問題解決へ向けての実践 』 
        『 子宮頚がん撲滅に向けて』 いわき市立総合磐城共立病院 本多つよし先生 講演
第二部 『 美しく健康に生きる 』 タレント 秋野暢子さん 健康講演

第三部 『 医療問題解決に向けて私達に出来る事は? 』 両氏による対談

いわき青年会議所 市民協働委員会が、全精力を結集していわき市民に問いかけける。

テーマ: 大切な人を守るために今すぐにはじめよう!

入場料 500円

お問い合わせ いわき青年会議所事務局 0246-24-0780 お問い合わせ 平日 10:00~16:00

2010年10月14日木曜日

「家族志向型ケア ⑥」

今回は、「家族志向型ケア」の2番目のコンポーネントである「家族という大きな枠組みの中にある患者の立場に焦点を当てる」なかで必要な「ファミリー・ライフサイクル」について解説します。
家族の抱える問題は、家族の在り方が発展していく過程を段階別にとらえることでより見えやすくなります。若者が家を出て独立し、カップルとなって結婚。妊娠して子供が生まれ、小さな子供のいる家族となり、やがて子供は思春期を迎え、独立し、両親は熟年期に入っていく。子供の出て行った家庭では年老いた夫婦が死と悲嘆を経験していく―。そして、それぞれの段階の移行期に多くのストレスが発生することが、さまざまな研究によって明らかになっています1)。それぞれの段階には家族の乗り越えるべき課題があり、それがうまく解決出来ない時に、さまざまな症状に表れることがあります。この中にはいわゆる不定愁訴と呼ばれるものも含まれ、そのような場合には往々にして医師を受診しても「なんでもない」「気のせいだ」と言われたり、次々と別の医師を受診して回るドクターショッピングを繰り返したりしがちです。
家庭医療では、その人がファミリー・ライフサイクルのどの段階にいるのかを考え、そこでの課題をうまく乗り越えられているのかをチェックすることが重要になります。例えば、青年期では、家族や地域社会で良い人間関係を築けているか、社会人として仕事にうまく順応できているかということが問題になってくるし、子供が巣立った後の夫婦では、自分たちの今後の生活について再考すべき時期でもあり、病気や死について気持ちの準備が出来ているかも問題になってきます。これらの課題が解決できないために、ストレスとなってしまうことが多いのです。

1)家庭医療 ~家庭医をめざす人・家庭医と働く人のために~ 葛西龍樹著 ライフメディコム社より

「家族志向型ケア ⑦」

今回は、「家族志向型ケア」の残りのコンポーネント「患者・家族と医療者がケアのパートナーになる」「医療者が治療システムの一部として機能する」「家族もケアの対象である」について一気に解説します。
「患者・家族と医療者がケアのパートナーになる」については、患者・家族と医療者がお互いに一方通行にならずに、両者が同じ理解基盤に立って信頼関係を持つ必要があります。医療者が一方的に治療を施そうとするのも、逆に総てのケアを家族に放任してしまうのも、パートナーシップとは言えません。もちろん、このようなパートナーシップはすぐに確立できるものではなく、皮肉にも、患者さんの容体が悪化して家族と医療者が「一緒に危機を乗り越えよう」と頑張った時に強化されやすいようです。
次に、「医療者が治療システムの一部として機能する」とは、いろいろな職種のスタッフがケアにかかわるときに、ケアのシステム全体がより良く機能するために自分に何ができるかを考え、行動することが重要だということです。ケアにかかわるすべての人々が協力し、ケアのシステムを構築していくことで、「自分のみがケアの主役だ」と思いこむことも、「指示されたことだけをすればよい」と思うことも避けられます。それぞれが、それぞれの視点から問題をとらえ、評価し、みんなで相談して計画を立て、責任を持って自分の仕事を遂行し、その成果を評価し、改善計画を立てることの繰り返しが求められます。
最後の「家族もケアの対象である」ということは非常に大事なことでありながら、しばしば見過ごされています。しかし、患者の危機を乗り越える時、家族と家庭医はパートナーであり、そのパートナーが傷ついていれば、そのことを見逃してはいけないのです。例えば、配偶者や親の介護にともなう不眠や疲労などを訴える家族のケースが増えています。家庭医の強みは、担当できる問題の広さゆえ、どんな家族の問題にも耳を傾け、対応してケアできることです。介護からくる疲労、心痛によって発生する疾患の予防や早期発見にも努めていきたいと思います。

「家族志向型ケア ⑤」

前回は「家族志向型ケア」の1番目のコンポーネントである「 病気を心理社会的な広がりでとらえる」ことが、本人と家族の機能に変化をもたらし、危機を乗り切りながら、より良いケアを生み出すパワーにつながった具体例をお示ししましたが、このことは、実は2番目以降のコンポーネント「家族という大きな枠組みの中にある患者の立場に焦点を当てる」「患者・家族と医療者はいずれもケアのパートナーである」「 医療者が治療システムの一部として機能する」「 家族もケアの対象である」にも直結してきます。
 今回は、2番目の「家族という大きな枠組みの中にある患者の立場に焦点を当てる」について解説していきます。これは、家族という全体像から、個々の問題とそれを持つ患者のこと考えることが大事だということです。
 現代の日常診療の多くの場面では、患者さんは家族という全体像を伏せた状態で受診します。しかし、その隠された全体像に目を向けた時に、その人の抱える問題が目から鱗が落ちるようにより良く理解できるようになることを私たち家庭医は数多く経験しています。具体的には、①家族が患者さんの健康についての考え方や行動に大きな影響を与える。②ファミリー・ライフサイクルの移行期のストレス(例えば、独立や結婚・老化や死への悲嘆など)が体調の変化をもたらす。③疾病の発生が家族の行動に変化をもたらし、患者を支える資源となる。ということが挙げられます。①の例としては「高齢者は何かあればすぐに入院させるしかない」と考えている家族がいれば、在宅ケアの導入は困難になりますし、③の例としては、今まで家のことには無関心だった父親が、子供の喘息発作をきっかけに、家事に協力するようになったり、親の認知症をきっかけに、疎遠だった家族親戚がコミュニケーションを再開したりします。では次回は②の「ファミリー・ライフサイクル」についてご説明します。

「家族志向型ケア ④」

今回は、前回お示しした「家族志向型ケア」のコンポーネントの1番目「 病気を心理社会的な広がりでとらえる」ことの重要性について具体例をお示ししながら更に解説を加えていこうと思います。
例えばこんなケースがありました。娘を嫁に出し、奥様ともだいぶ前に死別した高齢の独居男性が、体調を崩して外来受診したところ、すでに末期がんであることが発覚しました。もちろん、その悪いニュースを耳にしたご本人・娘さんともに大変な衝撃を受けたのですが、少し冷静さを取り戻した時点で、患者さんご本人と娘さんそれぞれの「病気」に対する固有の考えを探ってみました。患者さん本人の心理社会的側面は、解釈:「もう長くないことは理解した」、期待:「最期まで家で過ごしたいが…」、感情:「思うように動けなくなってきた。娘には迷惑かけられないので最期は病院か施設の厄介になるしかない」、影響:「覚悟はできていて別に困ることは無い」というものでした。一方、娘さんは、解釈:「不治の病状は理解・納得した」、期待:「本人が病院嫌いなのと、長年住んできた自分の家が大好きなのは良く知っているので、最期まで家で過ごさせてやりたい。そのために必要な介護は実家に住み込んででも自分がやりたい」、感情:「長年独りっきりにさせてしまっていた父に最初で最後の親孝行ができるかも知れない。母の時は突然死でちゃんとお別れが出来なかったので、今回はきちんと看取りたい」、影響:「夫と子供に迷惑をかけるが、夫も協力的で子供も手がかからないので、充分やっていけると思う」と、父親に突如襲いかかったこの「疾患」に対する向き合い方は意外なほど前向きでした。
この患者さんは、ご本人と娘さんの願いが叶い、ご自宅で永眠されました。娘さんも短いお別れの時間を大切に過ごされていたようです。「独居=在宅ケア不能」と決めつけるのは簡単かもしれませんが、「疾患」にともなって発生した「病気」の体験が、本人と家族の機能に変化をもたらし、危機を乗り切りながら、より良いケアを生み出すパワーにつながることを実感しました。

「家族志向型ケア ③」

今回は、前回お示しした「家族志向型ケア」のコンポーネントの1番目「 病気を心理社会的な広がりでとらえる」についてご説明していきます。これは、病気を単なる病理学的な変化という視点からみるのではなく、心理社会的な側面からもとらえるということです。以前「患者中心の医療の方法」の中でご説明したように、家庭医療は、患者さんのもつ「疾患」と「病気」の両方の経験を探るアプローチ法をとって発展してきました。「疾患」とは、病名のラベルのようなもので、「病気」とは、人が個々に持つ解釈、期待、感情、影響を含めた心理社会的な苦しみのことです。同じ「疾患」を持つ患者さんであっても、患者さんの数だけ、個々に固有の苦しみ「病気」が存在します。家庭医療では、健康問題を持つ人の「疾患」と「病気」の両方のケアをバランス良くしかも深く掘り下げていきます。中でも家族志向型ケアでは、患者さん本人の心理社会的な側面だけでなく、患者さんの家族1人1人の持つ解釈、期待、感情、影響を含めた心理社会的な側面にまで探っていきます。そして、病気が家族に及ぼす影響と、家族が病気に及ぼす影響との両方を見極めたうえで、患者さん本人と、ご家族それぞれに対する適切なアプローチ方法を検討し、実際のケアプランを見出していきます。次回は、「 病気を心理社会的な広がりでとらえる」ことについて、具体例をお示ししながら更に解説を加えていきます。きっとその重要性を実感していただけると思います。

「家族志向型ケア ②」

前回、ご説明した家族志向型ケアの骨格の部分を箇条書きにすると以下のようになります。

1) 病気を心理社会的な広がりでとらえる

2) 家族という大きな枠組みの中にある患者の立場に焦点を当てる

3) 患者・家族と医療者はいずれもケアのパートナーである

4) 医療者が治療システムの一部として機能する

5) 家族もケアの対象である

これら1つ1つについて次回以降詳しく解説していきたいと思いますが、ところで「家族」とはいったい何なんでしょう?何をもって「家族」と呼ぶのか?ここで確認しておきましょう。通常考えられるのは、夫婦と彼らの子供というように婚姻と血縁で結ばれている単位でしょう。しかし、離婚した場合や子供のいない夫婦の場合。結婚はしていないが子供はいる場合。独り暮らしの場合はどのように考えればよいのか?家庭医が家族志向型ケアのアプローチをする場合、「独り暮らしだから家族志向型ケアはできない」というわけにはいきません。そこで、家庭医療において「家族」について議論する場合、ある程度 従来の考え方を改める必要がありそうです。
 家族についてのさまざまな研究を見てみると、「歴史」、「未来」、「機能」、「献身」という4つのキーワードが浮上してくるそうです。福島県立医科大学 医学部 地域・家庭医療学講座の葛西 龍樹 主任教授は、家族について「共通の歴史と未来を共有する人々の集まりで、それぞれのメンバーの機能と献身とがその歴史を作り未来を決定する潜在力を持っている」と定義しています1)。人間社会が多様化している現代社会においては、家族についての考え方も変化に対応して柔軟に適用していく必要がありそうですね。
 それでは、次回は一番目の「病気を心理社会的な広がりでとらえる」から順にご説明していきます。

1)家庭医療 ~家庭医をめざす人・家庭医と働く人のために~ 葛西龍樹著 ライフメディコム社より

2010年10月7日木曜日

「家族志向型ケア ①」

 家庭医の診察では、患者さん御本人のことだけでなく、差し支えない範囲でご家族のことについても詳しく聴かせていただいています。それは単に、ご家族の病気についての情報が、患者さん本人の診断や治療方針決定に役立つという意味合いもあります。例えば、血圧が高くて受診した患者さんの親に心筋梗塞の既往がある場合、将来、患者さん本人が心筋梗塞を発症する危険性は通常よりも高いために、より厳格な血圧管理が必要になります。しかし、家庭医がご家族のことを根掘り葉掘りお聴きする理由はそれだけではないのです。
 家庭医はあなたのご家族のことを尋ねながら、時に「あなたの家族があなたの病気についてどんなふうに考えていて、あなたの家族があなたにどんなふうに協力できるのか知りたいのです」と言うかもしれません。しかしそこまで詳しく聴かれたら、きっとあなたは「新手のストーカーか?」と疑念をいだくかもしれませんね。しかし、家庭医は、家族の状態や気持ちも知ってケアを進めていくことが、患者さんが病気を持って生きていく上での心配事がより少なくなり、治療の経過も良くなることを知っているので、あえてご家族のことを詳しくお聴きするのです。こうしたアプローチを「家族志向型ケア」と言います。
家族を考えることの重要性は、在宅医療を想定すると理解しやすいと思います。例えば、在宅療養する患者さんが家族と同居しているのか、それとも独居なのかでケアの方針は大きく変わってくるでしょう。家族はどんな問題を抱えているのだろう。家族は患者の病気をどんなふうに考えているのだろうか?何を心配し、何を求めているのだろうか?毎日、どのような気持ちで過ごしているのか?患者の病気が自分たちの人生にどんな影響があると思っているのだろうか?こうしたものを含めた苦しみがどのようなものか理解することが重要です。家族の持つ癒す力を最大限に引き出す努力をする一方で、家族もケアの対象として介入する必要があるのです。不幸にして患者さんが死にゆく時、家族が死について考え受け入れるための準備教育をしていくことも、その後に起こる悲嘆を軽減し、更には家族の病気の予防へとつながります1)

1)家庭医療 ~家庭医をめざす人・家庭医と働く人のために~ 葛西龍樹著 ライフメディコム社より

福島県立医科大学 地域・家庭医療学講座の説明会

福島県立医科大学 地域・家庭医療学講座の臨床研修・教育活動「福島モデル」についての説明会が県内各地で予定されています。
興味のある方は、
comfam@fmu.ac.jp
までアクセスしてみてください。

チラシ

http://www.fmu.ac.jp/home/comfam/documents/2010ikyokusetsumei.pdf