2010年10月7日木曜日

「家族志向型ケア ①」

 家庭医の診察では、患者さん御本人のことだけでなく、差し支えない範囲でご家族のことについても詳しく聴かせていただいています。それは単に、ご家族の病気についての情報が、患者さん本人の診断や治療方針決定に役立つという意味合いもあります。例えば、血圧が高くて受診した患者さんの親に心筋梗塞の既往がある場合、将来、患者さん本人が心筋梗塞を発症する危険性は通常よりも高いために、より厳格な血圧管理が必要になります。しかし、家庭医がご家族のことを根掘り葉掘りお聴きする理由はそれだけではないのです。
 家庭医はあなたのご家族のことを尋ねながら、時に「あなたの家族があなたの病気についてどんなふうに考えていて、あなたの家族があなたにどんなふうに協力できるのか知りたいのです」と言うかもしれません。しかしそこまで詳しく聴かれたら、きっとあなたは「新手のストーカーか?」と疑念をいだくかもしれませんね。しかし、家庭医は、家族の状態や気持ちも知ってケアを進めていくことが、患者さんが病気を持って生きていく上での心配事がより少なくなり、治療の経過も良くなることを知っているので、あえてご家族のことを詳しくお聴きするのです。こうしたアプローチを「家族志向型ケア」と言います。
家族を考えることの重要性は、在宅医療を想定すると理解しやすいと思います。例えば、在宅療養する患者さんが家族と同居しているのか、それとも独居なのかでケアの方針は大きく変わってくるでしょう。家族はどんな問題を抱えているのだろう。家族は患者の病気をどんなふうに考えているのだろうか?何を心配し、何を求めているのだろうか?毎日、どのような気持ちで過ごしているのか?患者の病気が自分たちの人生にどんな影響があると思っているのだろうか?こうしたものを含めた苦しみがどのようなものか理解することが重要です。家族の持つ癒す力を最大限に引き出す努力をする一方で、家族もケアの対象として介入する必要があるのです。不幸にして患者さんが死にゆく時、家族が死について考え受け入れるための準備教育をしていくことも、その後に起こる悲嘆を軽減し、更には家族の病気の予防へとつながります1)

1)家庭医療 ~家庭医をめざす人・家庭医と働く人のために~ 葛西龍樹著 ライフメディコム社より

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