今回は、前回お示しした「家族志向型ケア」のコンポーネントの1番目「 病気を心理社会的な広がりでとらえる」ことの重要性について具体例をお示ししながら更に解説を加えていこうと思います。
例えばこんなケースがありました。娘を嫁に出し、奥様ともだいぶ前に死別した高齢の独居男性が、体調を崩して外来受診したところ、すでに末期がんであることが発覚しました。もちろん、その悪いニュースを耳にしたご本人・娘さんともに大変な衝撃を受けたのですが、少し冷静さを取り戻した時点で、患者さんご本人と娘さんそれぞれの「病気」に対する固有の考えを探ってみました。患者さん本人の心理社会的側面は、解釈:「もう長くないことは理解した」、期待:「最期まで家で過ごしたいが…」、感情:「思うように動けなくなってきた。娘には迷惑かけられないので最期は病院か施設の厄介になるしかない」、影響:「覚悟はできていて別に困ることは無い」というものでした。一方、娘さんは、解釈:「不治の病状は理解・納得した」、期待:「本人が病院嫌いなのと、長年住んできた自分の家が大好きなのは良く知っているので、最期まで家で過ごさせてやりたい。そのために必要な介護は実家に住み込んででも自分がやりたい」、感情:「長年独りっきりにさせてしまっていた父に最初で最後の親孝行ができるかも知れない。母の時は突然死でちゃんとお別れが出来なかったので、今回はきちんと看取りたい」、影響:「夫と子供に迷惑をかけるが、夫も協力的で子供も手がかからないので、充分やっていけると思う」と、父親に突如襲いかかったこの「疾患」に対する向き合い方は意外なほど前向きでした。
この患者さんは、ご本人と娘さんの願いが叶い、ご自宅で永眠されました。娘さんも短いお別れの時間を大切に過ごされていたようです。「独居=在宅ケア不能」と決めつけるのは簡単かもしれませんが、「疾患」にともなって発生した「病気」の体験が、本人と家族の機能に変化をもたらし、危機を乗り切りながら、より良いケアを生み出すパワーにつながることを実感しました。
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