これは、2008年の福島県の調査で、震災前の古いデータであるが、いわき市の救急医療状況の恥ずべき実態である。
他の地区に比べると、いわき市において、5回以上の受け入れ拒否が断トツに多い。
いわき市の救急医療に携わる者の実感として、救急隊からの日々の救急受入照会の内容を鑑みると、「かれこれ〇件目なのでなんとか受け入れてください」、「先ほども受け入れていただいたばかりで無理は承知ですが、受入先が見つからないのです」などと遠方の地区の救急隊から、懇願に近い要請が毎日のようにあり、この調査時の状況は現在もなんら変わっていないように感じる。
この状況は平日の日中ですら起きているのだが、夜間や休日となると、事態は更に深刻となる。
いわき市内の多くの2次輪番病院に常駐している日当直医は1名体制であり、救急要請に応需しうるか否かは、その医師の専門分野や技量およびモチベーションなどに左右される。
しかし本来、いわき市では2次輪番の当番に当たった2次救急病院は「救急隊からの受け入れ要請を原則拒否しない」ことになっている。
もしも本当にこの通り実行すれば、診療科の数に限りのある2次救急病院は、たとえ専門外の症状の患者であってもいったんは診療しなければならない。
専門外の患者の受け入れるとなると、訴訟問題がついてまわることになるだろう。
「救急隊からの受け入れ要請を原則拒否しない」などという絵に描いた餅を実際に食すには、軽症~中等症であれば専門外であっても受け入れて、標準的な診療を施すことができる病院総合医、救命医、ワイルドな家庭医など救急の現場でジェネラリストとしての働きができる医師が絶対的に不足しているのだ。
一方でこんな見方をすることもできる。
実際に当直していて辛いと感じるときはどんな時か?と思い返してみると・・・
それは、自分の診療行為が世のため人のためになっているとはとても思えない時である。
例えば、専門分野にかかわらず医師なら誰でも対応が可能と思われる明らかな軽症の患者が、数十km先から何十分もかけて搬送されてきた時。
貧乏性の私は、税金でまかなわれているこの救急車のガソリン代、救急隊の人件費、お金で買えない移動時間の価値を考え、「もしもこの方が最寄りの医療機関に受け入れてもらえていたなら・・・」想像する度にとても空しい気持ちになる。
そして、何よりもバックギアなモチベーションで患者さんに接してしまう自分がとても嫌になる。
まして、そのような患者さんの対応に追われたことが仇となり、近隣発生の救急要請に十分対応できなかったりすると、私のフラストレーションは最大になる。
だから、逆に事前情報からは専門外と思った患者さんでも、近くで発生した急患には極力対応するようにしている。
なぜなら、その方がもっとも効率が良いであろうことを経験上知っているから・・・
事前情報だけだと、最悪のシナリオを想起して断りたくなるものだが、その多くは、実際に拝見してみると、案外自分で解決できる場合が多いものだ。
「実際に診ない限り、自分には診れないのかどうかすら分からない」
だから診るのである。
そして何よりも、自分が守るべき地域を守っているという誇りを持って働くことができることが、自分にとって最高の喜びであり、心のよりどころなのである。
そして、自分がやるべきだと思う仕事を全力でまっとうした結果、たとえ訴訟問題がついてきたとしても、それはそれで仕方のないことだという覚悟ぐらいとっくにできている。
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