福島県内では、福島県の地域医療に興味のある全国の医学生を対象に、地域医療体験研修を開催しています。地域医療への理解をより深めてもらえるように、県内各自治体や各地域の医療機関が主体となって、地域医療の現場を実際に「見て」「聴いて」「感じる」ことができる企画です。県内の病院・診療所の見学、医療従事者との意見交換、地域住民との交流など、各地域の特色を活かした、他では体験することができない研修を目指しています。
いわき市でも2015年度から「いわき地域医療セミナー」と称し、地域医療体験研修を開催していますが、実は、いわき地域における昨年度までの研修内容は、いわき市立総合磐城共立病院を中心に展開されている急性期の高度先進医療の見学を中心としたものでした。でも「それって大学病院で学んでいる医学生にとって、きっと日常と大して変わり映えのない世界だよね~」と個人的に思っていました。
しかし、今年度からは参加者のみなさんに、より広く包括的にいわきの医療の全貌を理解してもらえるよう内容が一新され、訪問診療や地域包括ケアに積極的に取り組んでいる当法人も当研修プログラムに組み込んでいただけることになりました。しかも、地域医療の充実にテコ入れをしている福島県立医科大学では、この地域医療研修を今年度から3年生の必須プログラムとして位置付け、医学生たちが地域医療の実情を深く学べるように配慮しています。その結果、7月から9月にかけて計4回、2泊3日のプログラムに延べ47名の医学生たちがエントリーしてくれました。
「いわきの地域医療を学ぶために当院での研修で提供出来ること…。それは、良い意味で若者の夢を打ち砕くこと!」研修の受け入れに際し、そんな悪巧みを思いついた変人(わたくし)のいたずら心に火がついたことは言うまでもありません。日進月歩、華々しい進歩をとげている医療技術。しかしながら、超高齢社会の波の中、現代の高度先進医療を駆使しても解決し得ない、老衰や認知症などの終末期の患者さんは急増しています。看取りを前提とした超高齢者のケアこそ、この機会に若き医学生に敢えて考えて欲しいテーマである。という結論に達しました。
さて、実際の研修では、参加者の学年が若いこともあり、なるべく患者さん目線から訪問診療を見て欲しいと考え、各参加者にマンツーマンで担当患者さんを割り振らせていただきました。ほとんどの方が85歳以上の超高齢者です。診察を待つ間に「医師に何を期待するか?」などの“患者さんの想い”を聴き出すという無理難題的な課題を与えました。ところが、驚いたことに、多くの医学生たちは私たちの日常診療では語られていなかった患者さんたちの物語を見事に聴き出してくれました。常日頃から患者さんの背景を深く理解しようと努めていても、まだまだ不十分であることを再認識することが出来ました。学生さんたちには「学年が上がり卒業して医師になっても、患者さん側から見える風景と医師側から見える風景は違うということを認識して行動して欲しい」というメッセージを贈りました。診察の後、一通りの振り返りを終えたところで学生さんたちに「今日出会った患者さんたちの10年後は?」と、敢えて意地悪な質問をぶつけました。その時の皆さんの表情は忘れられません。まさに一同「そんなこと(患者さんの死について)考えていなかった」という感じでした。私は「患者さんを看取る覚悟と責任のある医師になって欲しい」と続けました。
「患者さんを看取る覚悟と責任のある医師が絶対的に足りない」というのが私の持論です。逆に、そのような医師が充足すれば、2030年の超高齢多死社会問題は一気に解決します。その実現ために日々活動している私たちの姿を、見て、聴いて、感じてくれたなら、このセミナーは大成功です。学生さんたちが何を想い、いわきを後にしたのか?気になるところです。
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