「科学的根拠とは何か」
津田塾大学国際関係学科 教授 三砂ちづる先生
「オニババ化する女たち」「おむつなし育児」で女性らしい生き方を提言し、最近では「不機嫌な夫婦」で日本人の夫婦を考察し、さらに「月の小屋」など作家としても活躍されている三砂先生の講義を聴講させていただいた。
そこで、最新の科学的根拠を医療の分野に提供する枠組みが疫学である。
講義を通して、Evidence Based Medicine(EBM)の父と称され、The Cochrane Libraryの礎をつくったイギリス人疫学者Archie Cochrane先生の名著「効果と効率」(サイエンスト社)で示された内容。人体の力と比較した場合の治療の非重要性、つまり、多くの疾患は自力で治るという事実に目を向けることの重要性を実感した。
何でもかんでも片っ端からとりあえず治療しておくという医療のインフレは、時に人間の自然治癒力を殺いでしまうかもしれない。
それを食い止めて、つまり無駄もしくは有害な治療を省いて、本当に必要で有益な治療に絞りたいという、Cochrane先生の願いが形となった臨床研究が Rondomised Controlled Trial(RCT)である。
<EBMの基礎>
人間にはもともとそなわった力があるのだから、介入には十分な理由がなければならない。
そして、介入するときは、人間の叡知をかたむけた最良の科学的根拠が適用されるべきである。
この言葉は重く心に響いた。
EBM実践のためには、自分に厳しく、しばしば利用者にも厳しい対応が求められるから…
しかし、研究あるところに意思あり。
つまり、研究者が示したい意図がない限り研究は始まらない。
逆に、誰もやりたくないことは研究にならない
場合によっては研究者の意図によって科学的根拠の結果自体に影響が出る。
つまり、科学的根拠を正しく評価し、EBMを使いこなすことは案外高度な業なのである。
それなのに、
より良い医療を提案するというEBMの元来の目的を見失うことなく、医学という科学のプロとして、思慮深く、良心的に、かつ明示的に、また科学的根拠に振り回されることなく、この便利な道具を活用していきたい。
10年ほど前からほぼ毎日きものをお召しという三砂先生の軽快でテンポの良い2時間のレクチャーの時間はあっという間に過ぎた。
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