2010年9月30日木曜日

「患者中心の医療の方法 ⑦」

今回は、患者中心の医療の方法の5番目の構成要素「診療に予防・健康増進を取り入れる」と、最後の6番目の構成要素「実際に実行可能であること」について御説明します。
 家庭医は、すべての診療場面を病気の予防、健康増進のための絶好の機会としてとらえます。健康であるときにも、ある健康問題が解決した後でも、予防、健康増進のために家庭医が出来ることはたくさんあります。治療が終了すれば患者さんとの関係もおしまいというのではなく、その人が健康な時にも病気にならないように予防や早期発見、健康増進を支援していきます。例えば、軽い風邪症状で臨時受診した新婚男性の胸ポケットに煙草の箱がチラチラ見え隠れしていたとします。本人は風邪を診て欲しくて受診したので、喫煙を問題視していないかもしれませんが、普段は医療機関を訪れない彼に喫煙の将来的なリスク(それは家族にも及ぶこと)を伝え、禁煙について話し合う絶好の機会となります。ただし、患者さんに求める行動変容は実際に実行可能でなければ意味を成しません。患者さんの事情を踏まえて達成可能な目標を設定することが重要です。また家庭医は、地域医療全体においても「実際に実行可能であること」を意識することが求められます。家庭医は地域の医療資源のマネージャーでもあるからです。ここでいう医療資源とは、入院適応の判断や、調査研究の利用、薬の処方、専門医への紹介などであり、地域に無尽蔵ではない一定限られた資源のことです。残念なことに、いわきはその人口に比して全国的に見ても代表的な医療資源の乏しい地域です。だからこそ、患者さんや地域全体の利益を考え、これらの医療資源を有効活用することが必要なのです。限られた時間と資源と能力で多くの患者・家族に最大の利益を与えるためには、重症=無条件に全例高次医療機関では、もはや地域医療が成り立たないのです。このような難しい条件の中では、舵取り役の家庭医の手腕が問われ責任重大ではありますが、ここは家庭医が特に本領発揮すべき領域なので、非常にやりがいを感じるところでもあります。

0 件のコメント:

コメントを投稿