皆さんは「人生会議」という言葉を聞いたことがありますか?
人生会議とは、アドバンス・ケア・
プランニングの愛称で、あなたの大切にしていることや望み、どのような医療やケアを望んでいるかについて、自ら考え、また、あなたの信頼する人たちと事前に話し合うことを言います。あなたの希望や価値観は、あなたの望む生活や医療・ケアを受けるためにとても重要な役割を果たします。誰でも、いつでも、命に関わる大きな病気やケガをする可能性があります。命の危険が迫った状態になると約70%の方が、これからの医療やケアなどについて自分で決めたり、人に伝えたりすることができなくなるといわれています。もしも、あなたがそのような状況になった時、家族などあなたの周りの人が「あなたなら、きっとこう考えるだろう」と、あなたの気持ちを想像しながら、医療やケアの方針を決定することになります。その際に、あなたの周りの人が、あなたの価値観や気持ちをよく知っていることがとても重要です。
全ての人が、人生会議をしなくてはならないというわけではありません。あなたが自分の最期のことを想像すらしたくないのであれば、無理に人生会議をしなくても良いです。
一方で、常日頃から自身の人生観について、周りの人達に語っていれば、あなたが自分の気持ちを話せなくなった「もしものとき」に、あなたの心の声を、あなたの大切な人に届ける助けとなり、あなたの大切な人の心のご負担を軽くすることもできるでしょう。
人生会議の本質は「本人が
どのような人生を歩んできて、どのような価値観を持っているか」について、ケアに関わるすべての人たちが共有し、以後に起こりうる種々の状況に応じて、本人の価値観にかなう柔軟な判断・意思決定ができるようにするプロセスなのだと思います。人生会議をする前に、先ず「どう生きるのか?」ということを、日々の生活を通して、大切な人たちと常日頃から語り合えたらいいですね。
ところで、東日本大震災から9年が経過した今、世間は新型コロナウイルス感染症の脅威に翻弄されています。人が集まるあらゆる活動が長期的に制限され、この何とも言えない不安と閉塞感、そして経済的ダメージは、まさに新型大規模災害といった様相です。
新型コロナウイルス感染症の発症者の多くは自然治癒しますが、高齢者や持病を持つ方は重症化しやすく致死率も高いです。もしも自分が新型コロナウイルスに感染し発症し、重症化してしまったら…。想像するだけでゾッとしてしまいますよね?
でも、ゾッとしたついでに更に深く想像していただきたいのです。
既に集団感染を起こしてしまっている地域が世界中に存在します。そこでは何が起きているでしょうか?
おそらく、局地的に医療需要が急増し、すべての患者さんに同じ水準の医療を提供することが困難になっているでしょう。この状況は、大規模災害の発災直後に似ています。この場合、限られた医療資源で一人でも多くの患者さんを救うために、軽症者と逆に重症過ぎて助かる見込みの低い方を敢えて後回しにします。医療資源を投入するべきか否かを選別・判断しなければならなくなるのです。皆さんは「これは非常事態だ」と、ますますゾッとするかもしれません。でもちょっと待って下さい。こんな時こそ冷静に普通に考えてみましょう。
そもそも肺炎は がん、心疾患に次いで日本人の死因第3位を占めます。もともと生命に関わる疾患なのです。ですので、新型肺炎だけを特別扱いせず、シンプルに もしも自分が重い肺炎を患って助かる見込みが低くなったらどうして欲しいかについて、あなたの周りの大切な人たちと語り合いましょう。
すでにご高齢で持病もあり「お迎えが近いかな?」と感じている方の中には「人工呼吸器など使わないで静かに看取って欲しい」というご意向の方もおられるでしょう。「できれば家で看取って欲しい」という方は、在宅ケアの条件が整えば、病院に搬送・入院する必要がなくなります。「自分の分の人工呼吸器は前途ある若者のために使ってくれ」ぐらいの気概をもった人生の先輩方が多くいる地域は医療崩壊を免れるでしょう。
今こそ国民総人生会議の時。あなたの生き様を周りに示す時です。