今宵は、第102 回いわき緩和医療研究会の司会を仰せつかりお勉強!
演 題 当院における緩和リハビリテーションについて
~作業療法士の立場から~
演 者 いわき市立総合磐城共立病院 リハビリテーション室 作業療法士
仲居 枝里子 先生
ということで、非常に興味深い「緩和リハ」についてのお話であった。
いかなる時も、個々の患者・家族の固有のコンテクストに歩み寄り、患者中心の医療を実践してくことが重要であるということを再認識した。
以下、ご発表内容からわたくしが健忘録としてまとめた内容を、演者の仲居先生の許可を得て掲載する。
いわき市立総合磐城共立病院では、平成23年度から緩和ケアチームによる回診を開始している。チーム所属のリハビリスタッフは、チーム回診対象患者に対し、必要に応じて緩和リハビリテーションを提供している。本プレゼンテーションでは当院における緩和リハの概要、緩和ケアにおける作業療法の概説、症例報告が行われた。
【緩和ケアチームと緩和リハの概要】
医師3名(消化器科2名、心療内科1名)、緩和ケア認定看護師1名、栄養士1名、MSW2名、薬剤師2名、理学療法士1名、作業療法士1名の計11で構成され、毎週金曜日に回診を実施する。新規患者においては各病棟から所定の書類が提出され、回診に先立ち緩和ケア認定看護師による面談・情報収集が行われる。回診後にはミーティングが実施され、緩和リハが必要とされた場合は主治医に打診し、主治医からの処方により緩和リハが開始となる。
演者が緩和ケアチームとして活動した期間(平成24年12月~平成27年4月)に関わった延べ
86名の患者の男女比は37:49、平均年齢:63.3±11.5歳、介入目的:精神支援(42例)、ペインコントロール(37例)、症状コントロール(26例)、リハビリ(11例)、平均回診回数:4回、緩和リハ実施:39/86(約45%)、緩和リハ平均実施期間:55日であった。
【緩和リハおよび緩和リハにおける作業療法】
緩和リハとは、苦痛を伴う症状の緩和を目的に実施するリハビリのことである。対象は身体的苦痛のみならず、精神的苦痛、社会的苦痛、スピリチュアルペインを含み(トータルペイン)、患者だけでなく家族に対して行う家族ケアの概念も含む。
緩和リハの役割は、患者の生命予後により変化する。生命予後が月単位以上見込める場合には、機能およびADLの改善が期待できる時期であるため、残存能力を用いたADLの維持・改善を目指す。進行する症状の緩和を図るべく、徐々に増加する生活上の制限に対して代償的アプローチを含めた援助をし、QOL維持を図る。生命予後が週・日単位の場合には、複数の症状の出現やADL低下が不可避であるため、苦痛症状の緩和、廃用症候群による二次性の苦痛症状の予防を図りつつ、患者・家族にとって意義のある時間を過ごせるように、患者・家族のQOLの向上を優先し、症状緩和・心理的支持を主体としたアプローチを行う。
緩和リハにおける作業療法の目的は、ADLの維持・向上、身体機能の維持・回復、心理・精神的支持、退院準備・支援、廃用予防であり、急性期・回復期における一般的な作業療法と大きな違いはない。しかし、全身の体力の低下、易疲労、易骨折や急変のリスクへの対応を要し、個々の体力に応じて適度な強度と休息に配慮しなければならない。通常のリハビリでは、病気やけがで失った機能の最大限の回復を目指し、失ったものにとらわれず新たな生活の構築していくのに対し、緩和リハでは、残された機能を最大限に発揮できるようにしつつ、最期までその人がその人らしい生活を全うできるように働きかけていく。作業療法の役割には、安楽な休息のための援助、適度な活動のための援助、日常生活の自立と介助の軽減、身体機能の維持・向上、精神機能の安定・賦活、外出や自宅での生活準備・支援、復職に準備となる活動の提供、家族や介護者への指導・援助がある。
緩和リハにおける作業療法の実際は、安楽な休息への援助として、痛みやだるさがなく安楽に眠ることができるポジショニングがとれるように、寝具・枕・クッションの準備、寝返りなどの動作介助の家族指導。食事や排泄などの遂行において、能力に適合した方法(環境設定・道具・自助具の選択・紹介)を指導し、QOLの維持・向上を支援。易疲労のある患者には、省エネ動作(電動ベッド利用、ベッドの高さの調節、歩行器)、優先順位を考慮した活動(家族との時間や排泄動作を上位にするなど)の提案。身体の動きが乏しいために生じる不動性の痛みや全身倦怠感に対する身体機能回復・維持に有効とされる関節可動域訓練の実施。興味のある活動に集中させて精神面の安定や活性化を図る。退院や外泊移動手段の提案や乗り物の乗降練習、介助方法の指導を行う。
作業療法の手段のひとつとして創作活動(Activity)がある。一定時間作業をすることで体力維持・向上が図れ、作りたいものを自分の意志で決定することができる。作業に集中することで、一時的にでも病気のことを忘れることができ、生活のリズム・メリハリができる。また、作品を通して周囲とのコミュニケーションが広がる。Activityによる作品は、患者の思いや生きた証を形あるものとして表現し、伝え、後世に残すことができる。作品をプレゼントすることは、感謝の気持ちや愛情を伝える手段にもなる。他者からの賞賛や評価を受けることで、自分の能力を確認することができる。作りたいものであれば、どのようなActivityでもよいが、失敗体験にならないように、患者の能力や体調に合わせ、中断・再開がしやすいものを選択するのがよい。患者の自信や達成感につながるよう、ベッドサイドなどで患者の作業や作品を見かけたら、一声かけてみて欲しいとのこと。
【症例報告】
60代前半 女性。〇〇癌の全身転移
職業:無職(元教員)。社交的で外出好き
同居家族:夫、次女
現病歴:発熱、倦怠感、嘔気にて入院中。自宅退院の意向。
初回の緩和ケアチーム回診では、胸痛、ADL低下、不眠、嘔気のため食べられない、イライラするなどの訴えあり、ADLは主にベッド上、動作緩慢で立位保持にも介助を要する状態(Barthel index:25点)であり、緩和リハの適応と判断された。本人から「手作業がやりたい」との希望あり、「目が見えにくい」「手が震える」との訴えがあったが、20~30分程度の離床は可能であったため、Activityとして、体調・疲労に合わせ作業時間の調整が可能で、難易度の調整も簡易なため成功体験が得られやすい「はり絵」を選択した。結果、生活リズムの構築、気分転換につながり、不眠の改善、イライラの軽減、創作意欲・積極性、ADLの向上(Barthel index:35点)が得られ、自宅退院となった。
考察:本症例に作業療法を施行した結果、生活リズムを構築し、活動量を確保することができた。また、創作に没頭することで、病人であることを一時的に忘れ、興味・意欲を増進し、作品への賞賛により自己価値観が得られるなどの効果が認められた。