2014年1月26日日曜日

内部被ばく講演会に学ぶ患者中心の医療の方法

昨日、郷ケ丘幼稚園で保護者・職員向けに内部被ばくについての講演会が行われた。

講師は、東京大学医科研の坪倉正治先生。
南相馬市立総合病院などで実施された内部被ばく検査のデータをもとに、私たちが今置かれている状況が分かるように、丁寧かつ明快にお示しくださった。


単に「心配いらない」という結論を押し付けるのではなく、この地で被ばくによる健康リスクを高めることなく生活することが可能であるというデータに基づいた根拠と、安全に生活するための注意点を正確に伝え、その情報をもとに個々人が身の振り方を自分達で選択できるようにすること。
費用対効果を高く保ちながら被ばくを低減しつつ、被ばく以上にずっと重大で明確なその他の多くの健康リスクを包括的に管理していくこと。
そういったことが、福島で医療を提供する者に求められる使命であることを再認識した。

恐らく、坪倉先生のお話がひじょ~に分かりやす過ぎて、かつツッコミどころもなかったためだと思うが、フロアからの質問も少なめだった。
同じいわき市に住んでいても、不安や苦しみの経験は、その程度も種類も千差万別。
そんな個々のコンテクストに配慮しながら、大事な情報を正確に伝えて個々人の判断材料を提供する。
そんな坪倉先生のスタンスに惚れた。

どんな場でも、EBMとNBMをバランスよく駆使しながら、家族・社会背景に配慮することを忘れてはいけない。
患者中心の医療の方法実践の修業中の身としては、坪倉先生の講演内容もさることながら、そういった優れたコミュニケーション能力を魅せていただき、自分にとってメチャクチャ勉強になる有意義な時間となった。

で、当然のことながら頑張って学んだ後に行きつく先は… デレスケ!


午前様で、今日は ホロスケ!!!

2014年1月23日木曜日

いわきの地域包括ケアの綻びから学ぶ地域医療 ~家庭医療セミナーinいわき 実践家庭医塾~

自宅で徐々に衰弱し、瀕死の状態になって救急搬送。
そんな事例が後を絶たない。
そんな事例を通して熱いディスカッションを行った。
そのほとんどは高齢者だが、必ずしも独居とは限らない。
この社会は一体全体どうなってしまっているのか?
しかも、このような形で医療機関にたどり着く患者さんはきっと氷山の一角で、
自宅で充分なケアを受けられずに過ごしている高齢者は、
恐らく私たちが直接拝見できる患者さんの数の何倍、何十倍と潜伏しているだろう。

厳密に言えば、急患ではない。
ただただゆっくりと進行した衰弱が、限界点を超えたのが今なだけ。
少し脱水を補正したり、時に食事の提供や排泄・整容など当たり前の日常が送れるように援助するだけで、徐々にに息を息を吹き返す患者さんも多い。

疾患という視点から見れば、何もないのかもしれない。
元気になったなら退院していいはずだ。
しかし、ただ一つ言えることは、折角回復した患者さんも、そのほとんどは、そのまま退院し、元の環境に戻せば、また必ずと言っていいほど、同じ状況になって戻ってくるということ。

予防という観点からいえば、これらの患者さんは、そのまま退院してはいけないのだ。
退院しても再入院しなくて済むような、これからのケアを視野に入れ、その方法を、様々なサービスの職種。家族。家族だけで事足りなければ地域住民までを総動員して連携し、これまでうまくいかなかった問題点を解決していくことが必要である。

厚生労働省の地域包括ケア推進指導者養成研修「地域包括ケアの理念と目指す姿について」で示されている問題点として、
・都市部を中心とした高齢者人口の増加
・認知症高齢者の増加
・高齢者一人暮らし・夫婦のみ世帯の増加
・良質な介護従事者の確保
が挙げられている。
いずれも一朝一夕に解決しにくい問題だが、だからこそ、医療だけでなく、介護・生活支援・住居環境整備など、地域の資源が束になって支えていかなければならないだろう。

現状では、医療-福祉-行政の連携が絶対的に不足しているように思う。
逆説的にいえば、これらがうまく協力し合えれば、今よりうんと良くできるポテンシャルを残しているのではないか?
自分もこれまで医療偏重の頭できたけれど、その反省をもとに、多職種連携の強化に努めていきたい。

ほしい未来は自分の手でつくる!

おまけ:病院総合医フェローシッププログラム認定証贈呈式


2014年1月16日木曜日

インフルエンザと抗ウィルス薬

インフルエンザ関連のCMが話題となっているそうですが、私はまだそのCMを拝見したことがありません。
CMを拝見する前の医療従事者の立場で、インフルエンザをはじめとする急性感染症への対応に関する私見をまとめておきたいと思います。
本文とはなんら関係ありません!


風邪やインフルエンザ・感染性胃腸炎など、ほとんどの患者さんが合併症や後遺症なく自然治癒する疾患で、今すぐ医療機関を受診しなければいけない場合はどれだけあるでしょうか?
また、すぐに受診することで、なんらかのメリットを得ることができる患者さんはどれだけいるでしょうか?

どちらもほとんどないであろうと私は考えています。



例えば、基礎疾患の無い普段元気バリバリの会社員が、夜間に急な38℃台の発熱を理由に時間外受診したとします。
確かに、全身の倦怠感や節々の痛みも強く、喉の痛み、咳を認め、インフルエンザ流行期でもあったため、迅速検査をしたとしましょう。
結果はA型・B型ともに陰性。
患者さん「ああ、良かった~。明日会社に行ける!」
医師「?」
患者さん「いや、インフルエンザだと会社に来るなって言われるんで…インフルエンザじゃなくてホントに良かったっす!()
残念ながら、この結果から この患者さんのような解釈はできません。
この迅速キットでの診断は、インフルエンザであることを証明(確定)する目的には向いていますが、インフルエンザではないことを証明(否定)する目的には向いていません。
例えば、この状況で検査結果が陽性になれば、ほぼインフルエンザであると断言できますが、そもそもこの検査は、インフルエンザの患者さん10名全員にこの検査をしても、概ね68名しか陽性にならないことが分かっています。しかも、発症直後であれば更に陽性率は下がることも知られています。
つまり、インフルエンザ迅速キットによる結果が陰性であっても、インフルエンザである可能性は充分あるわけです。
そもそも、この方がインフルエンザであろうとなかろうと、急性の感染症である可能性は非常に高いですし、翌日出勤すれば、会社で同僚に伝染させる可能性があることには変わりありません。
社内での感染拡大に万全を尽くす方針であれば、インフルエンザ・非インフルエンザ、もしくはノロウィルス・非ノロウィルスなどと、区別して管理すること自体ナンセンスですし、そもそも実際の臨床現場では、これらを確定的に区別することは不可能です。
一方で、仮に感染が拡大したとしても、ほとんどの場合、自然治癒することも事実です。
それなのに、インフルエンザやノロウィルスだけを、あたかも殺人ウィルスとして過剰に特別視する風潮には違和感を感じます。

今、抗ウィルス薬耐性のインフルエンザの出現が話題になっています。
結果「耐性が確認されていない新しい吸入薬や点滴を使いましょう!」という動きがあることを私は懸念しています。
繰り返しますが、インフルエンザに感染した方のほとんどは自然治癒します。
稀に重症化することがありますが、そのほとんどは赤ちゃんか高齢者・基礎疾患をお持ちの方です。本来、抗ウィルス薬は、これらの方を救うための薬であり、感染者全員に投与すべき薬ではありません。
確かに、インフルエンザ治療薬は、平均して治癒をおよそ1日早めるという効果があることが分かってきました。
一方で、大勢にこの抗フィルス薬を投与するデメリットは無いでしょうか?

大ありです。

まずは、薬価。
抗ウィルス薬の薬代だけで、だいたい13,000円~4000円しますし、点滴に至っては6000円以上。

そして薬の副作用。
例えばタミフルの副作用については、報告があるだけで以下のものとの関連が示唆されています。 
・肺炎 
・ショック、アナフィラキシー様症状、蕁麻疹、顔面浮腫、 喉頭浮腫、呼吸困難、血圧低下、劇症肝炎、重篤な肝炎、 著しい肝機能障害、黄疸、皮膚粘膜眼症候群、 Stevens-Johnson症候群、中毒性表皮壊死症、 Lyell症候群、皮膚障害、急性腎不全、白血球減少、 血小板減少、精神・神経症状、意識障害、異常行動、譫妄、 幻覚、妄想、痙攣、出血性大腸炎、血便、血性下痢 
・腹痛、下痢 
・発疹、蕁麻疹、紅斑、多形紅斑、皮膚そう痒感、皮下出血、 口唇炎、口内炎、潰瘍性口唇炎、潰瘍性口内炎、血便、メレナ、吐血、消化性潰瘍、興奮、振戦、しびれ、嗜眠、 
 上室性頻脈、心室性期外収縮、心電図異常、ST上昇、 動悸、血尿、気管支炎、咳嗽、眼の異常、視野障害、霧視、複視、眼痛、疲労、発熱、低体温、浮腫、不正子宮出血 
・嘔気、嘔吐、腹部膨満、便異常、口内不快感、食欲不振、頭痛、傾眠、不眠症、眩暈、肝機能障害、 蛋白尿陽性、好酸球増加、血中ブドウ糖増加、背部痛、胸痛 
・異常行動、嘔気、嘔吐、眩暈、浮動性眩暈、糖尿病が増悪、糖尿病悪化、高血糖、死亡 

リレンザの副作用についても同様に多彩な報告があります。
・口腔咽頭浮腫、アナフィラキシー様症状、気管支攣縮、呼吸困難 
・過敏症、発疹、下痢、悪心、嘔吐、嗅覚障害、失神、視力障害、喘息、気道出血、味覚障害、欝状態、激越 
・顔面浮腫、蕁麻疹、頭痛、手指のしびれ感、不眠症、咽喉乾燥、口渇、口内炎、舌荒れ、食欲不振、胃部不快感、嗄声、咽喉刺激感、鼻道刺激感、喘鳴、鼻出血、鼻漏、痰、耳鳴、動悸、発汗、発熱、頚部痛、背部痛 
・異常行動、精神神経症状、気管支攣縮、呼吸機能低下、失神、ショック症状 

抗インフルエンザ薬による副作用に関しては、死亡に至る副作用の有無が問題となり、現在でも因果関係が議論されています。特に、抗インフルエンザ薬タミフルの副作用として話題となった異常行動については、薬の服用に関わらず報告されているため、タミフルとの因果関係があるとは断定出来ないものの、タミフルの使用にあたっては、この様なリスクの可能性を踏まえて慎重に利用する必要があるでしょう。

また、インフルエンザ迅速検査自体のコストも無視できません。
検査料金+検査キット代でおよそ3000円也!
1回で確定できずに翌日再検査しようものなら、2倍のコスト。
高~い抗ウィルス薬を投与すれば…
更に初診料も加わると…
1人のインフルエンザ患者さんに、言うなればほとんどの患者さんに不必要な治療費として10000円以上の膨大な医療費が使われることになります。
ほとんどの方が、自然治癒する疾患に対して1日早く治すために…
インフルエンザが日本で年間100万人程度の報告があり、推計で1000万人程度発症していることを考慮すると、社会全体として莫大なお金が浪費されていることになります。
確かに、国民皆保険のおけげで個人レベルの窓口負担は軽減されるかもしれませんが、社会保障費として前払いしている事実を忘れてはいけません。

最後に、抗フィルス薬の集団投与による耐性の問題です。
「耐性ウイルスが出てきているので、インフルエンザ治療薬は必要な方だけに投与すべきである」というのが私の意見です。
私が知る限り、インフルエンザに対して日本ほど高頻度に抗ウィルス薬を投与する国はありません。結果、日本で耐性ウィルスを増やせば、世界から大ヒンシュクを買う(既に買っている?)わけです。
これまでのノリで片っ端から抗ウィルス薬をバンバン投与し続ければ、折角の優秀な新薬すら効かない耐性ウィルスが生まれるでしょう。
世界中の重症化を回避しなければならない患者さんを、薬剤耐性フィルスの脅威から守るためにも、抗ウィルス薬の投与対象を制限すべきだと思います。点滴薬の使用は更に点滴薬でしか投与できない虚弱高齢者や乳幼児・精神疾患患者などに限定すべきだと思います。

繰り返しますが、夜中に急に熱を出しても、患者さん自体わりとケロッとしている場合、患者さんを夜中にたたき起こして時間外受診させ、寒い中長時間待たせ、不快な検査をし、副作用のリスクのある高い薬の投与を急ぐよりも、ほとんどの場合、そのままゆっくり寝かせておいた方がいいです。なぜなら、そのほとんどが安静にしていれば自然に治る病状だから…
例外は、命にかかわる合併症や他の重篤な疾患を示唆する兆候がある場合。例えば、咳や喉の痛みがひどくて息苦しい、増悪する今まで経験のないような頭痛もしくはその他身体のどこか一部(胸・腹・背中など)の今まで経験のないような痛み、意識朦朧としているなどです。

以上の情報をもとに、CMから流れる情報を冷静な判断で受け止めて欲しいと思います。
皆さんの冷静な判断は、時間外診療に従事し疲弊する医療従事者をも救うことになるかも知れません。

2014年1月11日土曜日

記念すべき? 第90回 FaMReF@福島医大

今回はプレゼンの機会をいただいた。
テーマは「高齢者」
老化や死を恐れる患者さん本人や家族と
医学のプロとして
また、医学の限界を知る者として
関わることの重要性を強く感じる毎日。



高齢者に対して質の高いプライマリ・ケアを提供するために有用と思われるCGAComprehensive geriatric assessment について、とある患者さんの実例を通して、あらためて参加者の皆さんと一緒に考えさせてもらった。
その中で多剤併用にまつわる問題が いかに多いか再認識したのでその辺のエビデンスを「高齢者に対する適切な医療提供の指針」厚生労働科学研究費補助金(長寿科学総合研究事業)高齢者に対する適切な医療提供に関する研究(H22-長寿-指定-009)研究班 を参考に確認してみた。

想像通り、高齢者では薬剤による有害事象が起こりやすいようだ。
Akishita M, Teramoto S, Arai H, Mizukami K, Morimoto S, Toba K.Incidence of
adverse drug reactions in geriatric wards of university hospitals. Nihon Ronen
Igakkai zasshi. Japanese journal of geriatrics. May 2004;413:303-306.
Gurwitz JH, Field TS, Harrold LR, et al. Incidence and preventability of adverse drug
events among older persons in the ambulatory setting. JAMA. Mar 5 2003;2899:1107-
1116.

薬物動態や薬力学の加齢変化があるので当然といえば当然!
McLachlan AJ, Pont LG. Drug metabolism in older people--a key consideration in
achieving optimal outcomes with medicines. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. Feb 2012;67
2:175-180.
McLachlan AJ, Hilmer SN, Le Couteur DG. Variability in response to medicines in older
people: phenotypic and genotypic factors. Clinical pharmacology and therapeutics.
Apr 2009;854:431-433.

特に、多剤併用(特に 6 剤以上)に伴って予期せぬ相互作用や薬物有害事象の危険性は高くなるので、可能な限り多剤併用は避けるべきなようだ。
Chrischilles E, Rubenstein L, Van Gilder R, Voelker M, Wright K, Wallace R. Risk
factors for adverse drug events in older adults with mobility limitations in the
community setting. J Am Geriatr Soc. Jan 2007;551:29-34.
Field TS, Gurwitz JH, Harrold LR, et al. Risk factors for adverse drug events among
older adults in the ambulatory setting. J Am Geriatr Soc. Aug 2004;528:1349-1354.
Agostini JV, Han L, Tinetti ME. The relationship between number of medications and
weight loss or impaired balance in older adults. J Am Geriatr Soc. Oct 2004;5210:1719-
1723.
Larson EB, Kukull WA, Buchner D, Reifler BV. Adverse drug reactions associated with
global cognitive impairment in elderly persons. Ann Intern Med. Aug 1987;1072:169-173.
Kojima T, Akishita M, Nakamura T, et al. Polypharmacy as a risk for fall occurrence in -  13
geriatric outpatients. Geriatrics & gerontology international. Jul 2012;123:425-430.
Kojima T, Akishita M, Nakamura T, et al. Association of polypharmacy with fall risk
among geriatric outpatients. Geriatrics & gerontology international. Oct 2011;114:438-
444.

認知機能の低下、巧緻運動障害、嚥下障害、薬局までのアクセス不良、経済的事情、多剤併用など薬剤療法に対するアドヒアランスを低下させる要因は多岐に渡るので、服薬アドヒアランスについて、本人だけでなく家族や介護者からも定期的に情報を収集し、アドヒアランスを低下させる要因を同定し、予防・改善に努めたり、合剤の使用や一包化、剤形の変更など服用が簡便になるよう工夫することが大事だと思う。
Kaur S, Mitchell G, Vitetta L, Roberts MS. Interventions that can reduce inappropriate
prescribing in the elderly: a systematic review. Drugs & aging. 2009;2612:1013-1028.
Osterberg L, Blaschke T. Adherence to medication. N Engl J Med. Aug 4 2005;353
5:487-497.
Haynes RB, Ackloo E, Sahota N, McDonald HP, Yao X. Interventions for enhancing
medication adherence. Cochrane Database Syst Rev. 20082:CD000011.
Kripalani S, Yao X, Haynes RB. Interventions to enhance medication adherence in
chronic medical conditions: a systematic review. Arch Intern Med. Mar 26 2007;167
6:540-550.

ただし、実際にずっと飲んできた薬を中止することに抵抗を感じる患者さんやご家族は多い。
上手な服薬整理の実際についても議論がおよんだ。